北朝鮮メディアの「中国ネガティブキャンペーン」が目立つ。
今年3月に入ってから、朝鮮中央通信サイトで報道された中国に関する記事を調べたところ、次のようなネガティブなタイトルの記事が並んだ。
?「中国で鳥インフルエンザ被害」「中国で自然災害」「中国でバス事故」「中国河北省で日照り」「中国での事故で人命被害」「中国チベット自治区で大雪」「中国雲南省で地震被害」「中国の深刻な大気汚染」(3月13日までの記事タイトルから一部抜粋)
?2015年に入ってから中国に関する記事は77件で、ほとんどが数行レベルの記事だった。このうち、「中朝親善」を伝える記事はわずかに3件。交流団体が花束を贈った程度の内容だった。
それ以外の記事は、「鳥インフルエンザ」からはじまって「デング熱」「ペスト」「事故」「大地震」「大気汚染」などを伝えるのみで、まるで中国が「とてつもなくアブない国」という伝え方だ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面とりわけ「鳥インフルエンザがまたもや発生」というように、記事タイトルだけ見れば、もはや日本の嫌中報道顔負けの「中国ネガティブキャンペーン」と言っても過言でない。
こうした報道は、以前から度々あったが、昨年の8月以後から中国に関する報道は、ほぼネガティブ記事一色。張成沢処刑以後に冷え込んだ現在の中朝関係が如実に現れている。また、金正恩体制の中国への反発や中国依存からの脱却があるのかもしれない。
さらに、朝鮮中央通信の「中国ネガティブ・キャンペーン」の裏には、もう一つの「ある思惑」が見えてくる。ロシアとの接近だ。
ロシアとの急接近にあるのは金正恩の訪露?
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面最近急速に関係を強めている「ロシア」をキーワードに朝鮮中央通信で記事を検索したところ、2015年に入ってからその数149件。中国の78件に対して圧倒的な差だ。内容も「火山噴火」や「地震」を伝える3件を除いて、ロシアとの友好関係を強調する記事だった。
?1月1日のプーチン大統領の「新年の辞」と「ロシアの新軍事原理」からはじまって「人工衛星ロケット発射成功」やクリミア半島問題におけるロシアを支持する報道。同時に、そのロシアに対する制裁を非難する報道や、2月16日の金正日生誕記念日(光明星節)前後に開催された記念祝典や、金正恩氏に送られた祝電を伝える報道等々、友好ムード一色である。
実は、この傾向は北朝鮮だけでない。ロシア国営メディア「ロシアの声」も、しきりに北朝鮮との友好を強調し、米韓合同軍事演習に関しても北朝鮮サイドに立った論調が目立つ。両国は意図的に報道内容をリンクさせているようだ。(関連記事)
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また、今月11日には、中露が2015年を「親善の年」に定めたと報じている。(関連記事)
北朝鮮とロシアの申し合わせたような「友好キャンペーン」。この先にあるのは、もしかすると「5月の対ドイツ戦勝70周年記念式典に金正恩氏が出席すること」なのかもしれない。
本連載では1月末の時点で、金正恩氏の訪露が簡単ではないという見方を示していた。しかし、このところ急速に関係を強める朝露関係を見ていると「正恩氏がロシアで外交デビュー」は、ありえるのかもしれないと思えてきた。
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高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。