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秘密資金は核やミサイルの開発に使われるだけでなく、特権階級に「ぜいたく品」を配り、金正日体制の求心力を維持するための原資ともなってきた。

10年近く前の話になるが、民放テレビの取材チームとともに秘密資金の実態を探ったことがある。チームは欧州に飛んで取材を行い、イタリアのトリエステを拠点に、金正日の「ぜいたく品」購入係の男が活動していた事実をつかんだ。

トリエステの海運会社に出入りする「東洋人」

その男の名は呉明根(オ・ミョングン)という。2003年の秋には病死していたため、取材は困難を極めたが、それでも彼の足跡をある程度たどることができた。

事前に得た情報によれば、呉明根は1990年代半ばにトリエステの海運会社であるS社の代表を本国に招待し、北朝鮮の海運エージェントを委託する契約を結んだという。

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かつてS社のオフィスがあったイタリア・トリエステ市内のビル

現地で調査した結果、S社は旧ユーゴの域内に、複数の営業拠点を構えていることが判明した。呉明根は駐ユーゴ大使館での勤務歴があるとされ、そこで貿易関連の業務を担当しながら同社との接点を得たと思われる。

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S社と北朝鮮との契約締結以来、呉明根は同社のオフィス内に事務スペースを借り、自国船籍の貨物船を使った貨物ビジネスで外貨稼ぎに精を出す一方で「本業」の拠点にもしてきたようだ。