連載・日本の対北朝鮮情報力を検証する/外務省編(中)

北朝鮮の拉致問題や核問題は、日本にとって最も緊要な外交課題のひとつだ。それなのに、外務省の対北朝鮮部門は「ひ弱」なまま放置されてきた。

【連載-1-】巨大秘密警察に当たって砕けた日本外務省「たった6人のサムライ」たち

その原因は、外務省独特の組織構造とキャリアパス(出世の仕組み)にある。

日本の外務省は約2300人が勤務する本省と、約3500人が勤務する大使館や領事館などの在外公館によって成り立っている。そして、各国に駐在する在外公館の人員数は、その国が日本外交にとってどれほどの重要度を占めるかによって変わってくる。

「米国派」にポスト奪われ

しかし、北朝鮮は例外だ。重要な外交課題の相手国ではあっても、日本は北朝鮮を国家承認していないため、大使館などを置いていない。

大使館がないということは当然、日本の外交官が平壌に常駐することはできない。となれば、朝鮮語を専門とした外交官の勤務地は韓国くらいなもので、「専門家」が生まれにくいのが現状なのだ。

「外交官たちは、外務省に入省後、語学留学のために諸外国へと渡航していきます。そして帰国後は、その留学先毎に『スクール』と呼ばれる派閥を形成していくのですが……当然、コリア・スクールは圧倒的な少数派です。彼らは外務省内で『朝鮮族』と呼ばれていますが、これは中国の少数民族『朝鮮族』からきたもので、決して主流になれない省内での立場を揶揄したものなんです(苦笑)。将来的に大使などの重要ポストに就ける可能性が小さいコリア・スクールに、今後も人は集まりにくいでしょうね」(元外務省職員)

海外でも情報収集は「公安」任せ

そんな現状を象徴する事実として、歴代の駐韓国大使にはスクール出身者がひとりしかいないことも挙げられる。また、最近では中国や北朝鮮問題の比重が増してきたため、外務省傍流のアジア大洋州局長から3人の事務次官が誕生したが、いずれもアメリカ・スクールの出身であり、朝鮮語を操れる人物はいない。

保守系メディアでは「チャイナ・スクール外交官が中国寄りだ」などとしばしば批判されているが、彼らが語学力に長け、現地の状況や相手国の事情に通じている側面も無視すべきではなかろう。

つまり、こうした「専門家」不在の対北朝鮮部門が相手の懐に入り込み、有効な交渉を展開することなど、不可能に近いのである。

では、数少ないコリア・スクール外交官は在外公館でどのように活動しているのだろうか。

「コリア・スクールのノンキャリア外交官は2度、3度と韓国勤務を経験します。そのため韓国政府関係者の人脈も広がり、それなりの情報は入手できるようになるのですが……情報活動でいえば、警察庁や公安調査庁からの出向者、駐在武官にはおよびません」(前出・元外務省職員)

そもそも在外公館に勤務するのは、外務省職員ばかりではない。日本政府を代表する在外公館には各省庁からの出向者が勤務しており、この中には警察庁、公安調査庁のインテリジェンス(諜報)のプロも含まれ、防衛省は駐在武官を派遣している。

「海外での情報交換は、お互いの所属機関や肩書を見て、信用出来る相手か、情報提供する価値があるかどうかを判断する。そのため、相手国の情報機関とは警察や公安調査庁の出向者が、軍関係者とは駐在武官が情報交換を行うのです。そもそも彼らはインテリジェンスのプロなので、専門的な訓練を受けていない外務省職員では太刀打ちできませんから」(同)

「秘密ルート」の存在

とはいえ、情報機関が交渉相手を重要視するように、最高権力者もまた、相手の最高権力者とつながりたがるもののようだ。

対北朝鮮外交で言えば日本国総理大臣と金正恩氏のラインであり、総理官邸の名代は当然、外務省が果たさなければならない。

実は、停滞していた日朝協議が安倍政権になって突然動き出したのも、決して無視することのできない外務省の働きによるものだという。

そしてその裏には、ひた隠しにされてきた「秘密ルート」の存在があった。

【対北情報戦の内幕-3-】外務省の超極秘「日朝連絡ルート」を血眼でスパイする公安警察につづく

(取材・文/ジャーナリスト 三城隆)

【連載】対北情報戦の内幕/外務省編・外事警察編

    関連記事