今年に入り、日本と北朝鮮の外交当局者が会談していたことが明らかになった。不思議なのは、拉致問題の解決を強く迫るべき日本側が守勢に回っているようにさえ見えることだ。そもそもなぜ、日朝交渉は停滞を繰り返すのか。北朝鮮の理不尽さのほかに原因はないのか――。水面下で繰り広げられてきた対北情報戦の内幕をのぞき見ながら、疑問を解くカギを探る。

連載・日本の対北朝鮮情報力を検証する/外務省編(上)

2014年、久しぶりに対北朝鮮外交が動いた。長らく停滞していた日本人拉致問題が、解決に向け大きく動くかと思われた場面もあった。それと並行し、水面下では日本と北朝鮮の情報力が激突したといわれている。

だが、本当に「激突した」と言えるのだろうか。

10月末に平壌で行われた拉致被害者などの調査状況に関する協議で、日本は期待した成果をまったく引き出せなかった。それは「激突」する以前に、北朝鮮の情報力に一方的に攻め込まれていたからではないのか。

もっとも外務省の内情を知って見れば、「それもそのはず」と嘆息するしかない。何しろ、秘密警察の「国家安全保衛部」を中心に数十人態勢で臨んできた北朝鮮に対し、日本側の陣容はたった6人に過ぎなかったのだから。

朝鮮語を話せるのは1人だけ

拉致問題や核問題など重要課題が目白押しであるにもかかわらず、意外なことに、外務省には「北朝鮮課」が存在しない。北朝鮮を担当するのは、「アジア大洋州局北東アジア課」だ。

「外務省の主流派である米国と国連の担当部署は百人単位の分厚い陣容を誇りますが、朝鮮半島を担当する北東アジア課の人員は課長以下20人。それが総括、韓国、北朝鮮の3班にわかれていて、北朝鮮班にはたった4人しか配置されていない。拉致・核・国交正常化などすべての外交課題を、その人数でこなさなければならないのです」(外務省OB)

ちなみに、防衛省や経済産業省、警察庁などにも北朝鮮の担当部門はあるが、いずれも数十〜数百人の専属スタッフを置いている。それらに比べ外務省・北朝鮮班の“ひ弱さ”は異様とも言えるレベルだ。その理由については後で述べるとして、まずは北朝鮮班の構成を見ておこう。

北朝鮮班は、キャリア外交官である班長と次席、通訳、そして拉致問題を担当する警察庁からの出向者の計4人で構成されている。このうち、朝鮮語を習得しているのは通訳1人だけであり、キャリアと警察庁出向者は1~2年で異動してしまう。

存在の耐えられない軽さ

そして、彼らを手足として、対北朝鮮外交の指揮をとるのがアジア大洋州局長と北東アジア課長だ。外務省には「政策決定に参画できるのは課長以上」との不文律があり、政治判断を伴う北朝鮮との協議は、水面下交渉も含め、局長と課長が直接担当しているという。

ハッキリ言って、こんな小所帯では北朝鮮関連のニュースに目を通すのもムリだ。

000019314
外務省HPより

北朝鮮がいくら「情報鎖国」であるといっても、日本や韓国、中国、欧米のメディアが日々報じる情報は膨大な量に上る。外務省の態勢を見ていると、そういった情報の収集と分析など「はなからやる気がないのでは?」と思えてくる。

公電の「行間」が読めるか

ちなみに、外務省にも“情報機関らしい”名称の部門があるにはある。「国際情報統括官組織」というのだが、外務省内での存在感はないに等しい。

「国際情報統括官組織の職員はシンクタンクの研究員みたいなもので、仕事の内容は政策の現場と相当な距離がある。その上、ここにも北朝鮮担当は数人しかいません」(前出・外務省OB)

もっとも、外務省には情報力がまったくないのかと言えば、そうではない。世界各国の在外公館から報告される「公電」は、外交官たちの強力な武器だ。北朝鮮についても日々様々な情報が世界中から寄せられており、メディア情報からは得難い様々なヒントが含まれているはずだ。

とはいえ、それを十分に活用するには、北朝鮮の公式発表やメディア情報と見比べながら、公電の「行間」を丹念に読む作業が欠かせない。たった4人の班員に、それがどれだけできるのか。

ここでも、国際情報統括官組織は生かされていない。公電情報へのアクセスは許されているものの、あくまで「読みたきゃ読んでもいいよ」という程度の位置付けであり、省内でまったく頼りにされていないのだ。

【対北情報戦の内幕-2-】北朝鮮班は日本外務省の「少数民族」!? 出世の道なき“脇役”たちの悲哀と迷走につづく

(取材・文/ジャーナリスト 三城隆)

【連載】対北情報戦の内幕/外務省編・外事警察編

    関連記事