北朝鮮国内のあちこちで見られるスローガンは既にお馴染みの風景だ。スローガンは、国の方針を反映したものであり、そのトレンドから北朝鮮当局が何を狙って、住民達に何をすり込みたいのかということが見えてくる。

キノコ工場を現地指導する金正恩氏
キノコ工場を現地指導する金正恩氏/2013年7月16日付労働新聞より

この間、スローガンに見られた「金正日同志」の文字が、最近では「金正恩同志」に書き換えられて掲げてあることが、デイリーNKジャパンが現地の情報筋から入手した写真からわかった。

会寧の税関「偉大な金正恩同志を首班とした党中央委員会を体で死守しよう!」と書いてある
会寧の税関「偉大な金正恩同志を首班とした党中央委員会を体で死守しよう!」と書かれてある/撮影日2014年12月下旬

スローガンと言えば、一時期「強盛大国」が目立ったが、最近ではすっかり見られなくなった。「強盛大国」の裏には「今は苦しくとも2012年に北朝鮮は強盛大国になるから我慢しよう」という苦しい言い訳が込められていた。

筆者が2011年に中朝国境を取材した時、北朝鮮住民は旅行者はこう述べた。

「強盛大国は、いったいどこの村まで来たんだい?俺たちの村にはいつ来るんだ?」

ところが、2012年を過ぎても北朝鮮は「我が国は強盛大国になった!」という自画自賛もせず、それどころか強盛大国という言葉自体が聞けなくなった。同年末に飛ばされた長距離弾道ミサイル「銀河3号」とともに宇宙にでも飛んで行ってしまったのだろうか。

強盛大国に代わるスローガン「キノコ」

その後、北朝鮮は「馬息嶺速度」「朝鮮速度」「白頭の血統」などのスローガンを掲げてきたが、今月11日に朝鮮労働党中央委員会、朝鮮労働党中央軍事委員会は、祖国解放70周年と朝鮮労働党創立70周年に際して343もの共同スローガンを発表。その中には「強盛大国」の「強盛」という文字すら見られず、北朝鮮スローガンのトレンドが変わったことがわかった。

【関連記事】朝鮮労働党中央委員会と党中央軍事委員会が共同スローガンを発表

さらに343のスローガンをつぶさに見ていくと、風変わりなキーワードが見つかった。

それが「キノコ」だ。

「キノコ生産を科学化、集約化、工業化して、わが国をキノコの国にしよう!」

たしかに北朝鮮の公式メディアから「キノコ」という言葉を頻繁に見かけるようになった。そこで、「朝鮮通信」サイトに掲載された「強盛大国」と「キノコ」という二つのキーワードを調査したところ興味深い数字が明らかになった。

強盛大国 キノコ
2010年 10 1
2011年 21 0
2012年 20 1
2013年 4 10
2014年 4 17

 

表を見れば明らかだが、2013年を境に「強盛大国」が激減すると同時に、反比例するかのように「キノコ」が浮上してきた。2014年に出てきた先述のスローガンを調べてみると「馬息嶺速度」は6回。「白頭の血統」は11回。「朝鮮速度」が31回と最も多かった。

どうやら金正恩体制は「キノコ」を際立たせようとしているようだ。食糧不足の北朝鮮でキノコ栽培に力を入れようとするのは理解できるが、北朝鮮を「キノコの国」にして何をどうしたいのかは、やっぱりわからない。

最近の金正恩氏の動向をみていると、戦闘機や飛行機に並々ならぬ愛着を注いでいることがわかる。また水産工場を頻繁に訪れたり「ナマズ革命」に檄を飛ばすなど「サカナ」に関しても相当コダワリを持っているようだ。

金正恩時代を読み解くキーワードは「飛行機」「サカナ」そして「キノコ」なのかもしれない。

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キノコ工場を現地視察する金正恩氏
キノコ工場を現地視察する金正恩氏/2015年1月10日付労働新聞

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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