民間メディアのない北朝鮮では、日本のようにテレビが流行語を作って広がることはない。しかし、市場などを通じた口コミの威力は絶大であり、よく出来た流行語はあっという間に国中に広がっていく。デイリーNKでも北朝鮮の流行語について何度も報じている。

全く信用できない銀行にお金を預ける人のことを「キングオブ馬鹿」。山菜採りブームを指して「お金がない人は山に!」などなど。

「幹部たちがモヤシの頭のように……」

ほとんどは生活苦から生まれる自虐的なジョークだったり、労働党や金正恩体制を風刺・揶揄するブラックジョークの類いで北朝鮮独特の世相が反映されている。それゆえに単なる「流行語」というより「今の北朝鮮」を知る重要な材料にもなりうる。

【参考記事】
北朝鮮の銀行は信用ゼロ? 「預金するなら捨てたほうがマシ」
国境地域の流行語 「お金がない人は山に!」

最近、北朝鮮の幹部の間で流行している言葉は「モヤシ頭」だ。その裏事情を米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が伝えている。

北朝鮮では最近高級幹部に対する粛清が次々に行われている。「モヤシ頭」とは相次ぐ粛清の様子をひょいひょい摘まれていくモヤシの頭に例えた風刺だ。また、上に上がれば上がるほど粛清される危険性が増すという意味も込められている。

北朝鮮の内部情報筋はRFAに対して次のように語った。

「労働党の副部長たちは、次々に連行されて処刑される幹部達を見て震え上がって、空気を読んでいる」

北朝鮮では、張成沢氏の処刑に次いで、労働党の行政部門の高級幹部2人が姜健(カンゴン)軍官学校の射撃場で高級幹部が見守る中で銃殺に処された。

昨年10月には黄海南道(ファンヘナムド)海州(ヘジュ)市の労働党責任秘書が「党の唯一的領導体制に違反した」という理由で粛清された。

最近の大物幹部の粛清といえば、朝鮮人民軍総参謀部の辺仁善(ピョン・インソン)作戦局長と国防委員会の馬園春(マ・ウォンチュン)設計局長だ。

とりわけ馬園春は、張成沢粛清を主導した「三池淵組」の一人でもあり、金正恩時代は「明日には誰が粛清されてもおかしくない」というイメージを植え付けたことは間違いない。

【参考記事】
北朝鮮 張成沢処刑にも関わった幹部が粛清か
張派粛清の反発懸念で速度調節

大臣レベルでも相互監視

事実、相次ぐ粛清に下級幹部たちの間には「労働党の副部長クラスがどんどんやられているが、自分たちもいつやられるかわからない」という虚脱感が漂っている。

元北朝鮮高級幹部の脱北者はRFAに対して次のように語った。

「金正恩の恐怖政治で高級幹部たちは、周辺の空気を読むのに必死だ」

「韓光相(ハン・グァンサン)労働党財政経理部長はコバンザメのように金正恩にくっついて何やら一所懸命メモを取っているが、それは金正恩が怖いからだ」

「朴奉珠(パク・ポンジュ)総理はトラック3台ですら自分の意向で動かせないほど権力がない。単なるカカシだ」

「(張成沢粛清を主導した)労働党組織指導部のメンバーは、粛清を避けるために仮病を使って現地指導への随行を避けようとする。でも、結局は監視の目が怖くて現地指導に随行せざるを得ない」

金正恩時代になってから、労働新聞を通じて老幹部達が、正恩氏の後ろでもみ手をしたり、愛想笑いをしたり、懸命にメモを取る様子が頻繁に見られるが、この裏には正恩氏の恐怖政治があるということだ。

金正恩氏は、体制を強固にするために恐怖政治を行っているのだろう。しかし、こうした政治からは「恐怖政治の拡大再生産」と「社会の閉塞感」しか生まれない。歪な政治手腕が、遅かれ早かれ己の体制不安に導くことを金正恩氏は知るべきである。

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