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ここが決断のしどころ?(絵/りむ・ちゅぬん)

キューバと米国が国交正常化に向かっている。北朝鮮もキューバと同様、体制の安定と経済発展のために米国との関係改善を望んでいるわけだが、まったく上手く行っていない。

米朝関係でも、過去には「もしかしたら」と思わせる場面はあった。

核開発をめぐる危機がピークに達し、文字通り「戦争前夜」の空気が漂っていた1994年、カーター元米国大統領の電撃的な訪朝を機に米朝は交渉で妥結。その劇的な展開は、両国関係の急接近を予感させた。

さらに2000年には、金正日総書記の特使が史上初めてホワイトハウスを訪問。彼がワシントンを離れてからわずか11日後に、こんどはオルブライト国務長官が平壌で金総書記と会った。時間(任期)切れで間に合わなかったが、当時のクリントン大統領の訪朝実現まであと1歩のところまで行ったのだ。

そこまで行きながら、米朝関係は大きく後戻りした。なぜか。

直接的な原因は、北朝鮮の核・ミサイル開発にある。あるいは、北朝鮮を「悪の枢軸」と呼んだブッシュ政権の強硬姿勢が、北の暴走に拍車をかけたとの分析もあるだろう。

しかし根本的な原因は、核でもなければ米国の政策でもない。正解が何であるかは、北朝鮮とキューバの「違い」から知ることができる。

「核・ミサイル」放棄はカネしだいだが……

キューバ政府は、米国との国交正常化交渉入りに伴い約束していた政治犯53人全員の釈放を完了した。これを受け、米国務省のハーフ副報道官は12日の記者会見で、「非常に前向きな動きであり歓迎する」と述べた。

米国と国交を結ぶのに政治犯の釈放が必須であるなら、それは北朝鮮にはとうていムリな相談だ。何しろ、北朝鮮の政治犯収容所ではすでに万単位、あるいは十万単位の人々が凄惨な虐待の末に殺されている。そして今なお、同じくらいの数の人々が囚われ、虐待を受けている。

その人々が自由を手に入れ、世界に向かって真実を語り始めるなどという事態は、それこそ北朝鮮の体制にとって「悪夢」であり「自殺」に等しい行為だ。金正恩体制がいくら米国との関係改善を待望しているとしても、それを実現するために「自殺」してしまっては話にならない。

それに比べれば、核やミサイルの交渉はよっぽどたやすい。

たとえば誰かが「核もミサイルも放棄しろ。そうすれば100兆ドル払うから」と約束したとしよう。それが信じるに足ると金正恩氏が判断すれば、そこで交渉はまとまるはずだ。それだけのカネがあれば、指導者の資質がどうあれ豊かな国作りができるし、核兵器抜きで強力な軍事力を備えられるのだから。

もっとも100兆ドルでは、世界のGDPの合計を上回ってしまう。そんなカネは誰も払えない。では、1兆ドル(約120兆円)ではどうか? やはり、北朝鮮にみすみすくれてやる物好きはいないだろう。大きく下げて10億ドル(1200億円)なら、「払ってやってもいい」という国はありそうだ。しかしその額では、北朝鮮が要求を飲むまい。では100億ドルなら? もしくは20年分割で1000億ドルなら……。

そうやって利害を調整して行けば、いずれどこかで折り合いがつく。「核とミサイルを放棄する」「そのかわりカネをやる」という約束を互いに信じ合えるか、という問題もあるが、それも利害調整の範囲内だ。

だが政治犯の釈放――すなわち人権問題は、そうはいかない。政治犯収容所は、金正恩体制にとって「パンドラの箱」だ。どんなにカネを積まれても、進んでフタを開く選択肢などないのだ。

人権問題で続く堂々巡り

一方、米国はどうかといえば、こちらも北朝鮮の人権問題に対する姿勢は曖昧だ。ハッキリ言ってしまえば消極的である。

米国にとっては、自国の安全保障に直接影響する核・ミサイル問題の方が優先度は高い。彼らは交渉を通じてそうした危険要素を取り除こうとしているのであって、そのためには、北朝鮮に「見返り」を期待させなければならない。いまここで、北朝鮮の体制を脅かす人権問題を真正面から取り上げ、金正恩氏を絶望させるのは「得策でない」と踏んでいるのである。

そんな米国の胸の内を知ってか知らずか、北朝鮮は核・ミサイル開発の強度を高め、米国の気を引き、自らの値打ちを高めようと躍起だ。いや、もしかしたら彼らも、核やミサイルの問題がいずれ片付けば、次は人権問題を突き付けられることに気付いているのかもしれない。

だとすれば北朝鮮は、核・ミサイル開発からいっそう手を引けなくなる。それに対して米国も、人権問題で強く出ず、交渉の余地を残している――米朝関係はいま、こんな状態で固まっているのだ。

しかしそれも、永久に続くわけではない。北朝鮮の人権蹂躙に対する国際社会の追及は、少しずつだが強まっている。昨年末をもって、国連安全保障理事会の正式議題にもなった。人権問題がいったん世論化すると、欧米の政治家は非常に敏感に反応する。国連で、北朝鮮の人権状況に対する抜本的な提案が出された場合、米国政府も「YESかNOか(乗るかそるか)」を、本腰を入れて考えるかもしれない。

それに対して、北朝鮮はどのような答えを持ち合せているのか。まず間違いなく、「YESかNOか(受け入れるか否か)」といったものではない。「NO」は大前提であり、彼らが言うところの「超強硬対応戦」に出るだけである。選択肢があるとすれば、それはせいぜい「核とミサイルのどちらをぶっ放すか」といったことぐらいだ。

その行いの結果として、米国との修交はさらに遠のく。

いま、米国が国家と認める国の中で、外交関係を結んでいない国はキューバ、イラン、ブータン、北朝鮮の4つしかないという。キューバとはもうすぐ国交を結ぶし、ブータンとは国交はなくとも関係は良好だ。イランとの仲は険悪だが、北朝鮮に比べれば「大人の話し合い」をしているようにも見える。

北朝鮮が、米国から“付き合い”を拒否される唯一の国となる日も、こないとは限らないだろう。

(文/ジャーナリスト 李策)

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