ルポ 日中韓3ヵ国共通歴史教科書会議

東アジア3ヵ国のなかでも、「共同歴史認識」への取り組みがもっとも進んでいるのが韓国だろう。高校の授業で選択科目として「東アジア史」を履修課目に組み入れ、隣国(日本、中国)との関係史を教えているのだ。

韓国ではすでに、3ヵ国共同編集の歴史教科書が教育現場で使用されており、3ヵ国合同授業に一番熱心なのも、また韓国だ。サマーキャンプに参加する韓国の子供たちは、両親に積極的に奨励されて参加するという。

しかし一方、韓国ではまた経済界を中心に、日本に対してのみ批判的で、中国や北朝鮮などに親和的で容共的な歴史教育と歴史教科書に対する不満が高まっているという。

歴史教科書めぐり韓国国内で対立

「韓国は現在激しい歴史戦争のまっただ中にある」と言うのは、韓国アジア歴史連帯の運営委員の1人である李寅碵氏だ。

「2014年から一部の高校が新しい韓国史教科書を使用しはじめたが、そのうち物議を醸しているのは、教学社の教科書だ。

反対派はこれを『親日的で独裁を美化する内容だ』と批判する。対して支持派は、現行の他社歴史教科書を『親北、左傾、反国家的』と主張する」

つまり、韓国でも日本の「つくる会」教科書騒動と同様な歴史教科書問題が起きているというわけだ。李氏が続ける。

「2005年1月、韓国の新右翼と呼ばれるような人たちが教科書フォーラムを創設し、教科書論争が再燃した。

そして2008年、李明博政権が誕生すると、現行の教科書への攻撃が異常に激しくなった。大韓商工会以下の経済団体は率先して教科書の修正を求め、韓国教育部がこれを受け入れた。同年7月、教育部は257項目からなる修正要求を国史編纂委員会へ突きつけた」

同委員会はそのうち、49項目についてのみ、修正を行ったという。

そして2013年、「新しい高校韓国史教科書」が検定をパスして認可された。通過した8種類の教科書のかには、新右翼系の教学社教科書も含まれていた。主な著者は、韓国現代学会の前・現会長の権熙永と李明熙である。

「彼らは教学社の教科書は大韓民国の正当性を強調し、生徒たちに誇らしい経済成長を遂げた韓国の歴史を学ばせることができると主張した。しかし、翌2014年、教学社系の教科書を採用した高校が10校あまりに留まった。しかもその後、生徒、教師、保護者の激しい抗議のために実際の採用は1校のみとなってしまった]

つまり、「韓国の民意が右傾化教科書を退けたのだ」と、そう言いたいのだろう。

韓国ではまた経済界でも「東アジア共同体」への動きが進んでおり、大企業を中心に、800字の「3ヵ国統一常用漢字」の試験が実施されているという。

共通常用漢字800字は、いずれも漢字を使用する3国の基本文字の表記を統一しコミュニケーションの円滑化を図ろうという趣旨で、中国で開発されたものだ。

「従軍慰安婦」が消えた後の日本

では、中韓の手厳しい批判に対し、バッシングを受けた日本側はどう反応したか?

例えば、日本代表団の事務局長で市民団体「子どもと教科書全国ネット21」の事務局長でもある俵義文氏は近隣両国からの批判をほぼ全面的に肯定して、こう語った。

「現在、東アジアの3国関係がおかしくなっている最大の原因は日本の第2次安倍政権にある」

例えば、安倍政権は憲法の解釈を変更して日本の集団的自衛権を事実上認めた。俵氏によれば、「これは日本をアメリカと一緒に戦争できる国に変えた」ことと同義であるという。

同氏はまた、年の瀬も押し詰まって不意打ちのような解散総選挙に対しても不満を表明した。

「今回の突然の解散総選挙は、アベノミクスの失敗、沖縄選挙の大敗を受けて追い込まれた安倍首相が党利党略勝手に解散したこと以外の何ものでもない」

俵氏はさらに、慰安婦問題、教科書問題、日本の戦後処理問題等に関する安倍政権の取り組みに対し、具体例を挙げながら批判を重ねる。

「安倍首相は、村山談話・河野談話を継承と言いながらこれをまったく無碍にしている」

「桜井よしこらがアメリカの新聞に意見広告を出し、これの賛同人に安倍内閣の閣僚が名を連ねている」

「安倍首相は、2011年4月10日、文部科学省担当者を呼んで高校教科書に慰安婦の記述があるのを叱責した」

 ……等々。

そして俵氏の結論は、「安倍政権の目的は国民を犠牲にして大企業が儲かる国づくりをすること」というものだ。「そのための手段が教育なのだ」というのである。

しかし、「日本の平和勢力が衰退している」という中韓両国からの指摘に対しては、反論もあった。「ねりま9条の会」の大柳武彦氏は、自由討論の場で会場からこんな風に発言した。

「7月の解釈改憲には、宗教で言えば、仏教、キリスト教、創価学会まで反対した。全国で220の議会が反対決議を出している。9条の会は銀座でデモをやる予定だ」

「現在日本は、労働運動も学生運動も停滞している。しかし、ネット通じて市民の連帯が生まれている。これによって、市民運動は盛況を見せている。これによって、8割の市民が原発の再稼働に反対しているというのが現状だ」

「今回の安倍解散を、私はチャンスと見ている。解散後、安倍政権の矛盾が必ず大きくなる。カジノが第4の矢だんて……。これで安倍政権はおしまいだ」

さらに、2014年8月、朝日新聞の?訂正報道?で大騒動になって以降の従軍慰安婦問題の動きに関しても、報告があった。

アクティブ・ミュージアム「女たちの戦争と平和資料館(wam)の渡辺美奈氏は、「安倍首相は次回再選された時に慰安婦問題を否定する安倍談話を発表するつもり」なのだと言う。つまり、9月の国連演説で、「女性の自立」だとか、「女性への暴力をなくす」だとか述べて60万ユーロを拠出するなどとリップサービスに努めたのは、2015年に発表する安倍談話に向けての伏線だったというのだ。

「従軍慰安婦」が教科書から消えて13年。

埼玉県の中学教師、中条克俊氏は「現在では、心ある教師だけが授業で教えている。私は毎年、授業の一番最後に教えている」と語った。

「慰安婦の授業後、生徒たちからは“事実”という言葉が多く聞かれた。慰安婦が善か悪かではなく、とにかく事実はどうだったのかを知りたい、と。ほぼ100%の生徒が『「従軍慰安婦」という言葉を教科書に載せるべきだ』答えている。その理由は、それが日本に否定的なものであってもやはり「事実」を知りたいからなのだ」

しかし、明治大学非常勤講師の斉藤一晴氏は、「安倍総理がやめても教科書は変わらないと思う」と、現在の日本の政治情勢を冷静に分析する。「近現代史を教えない日本の歴史教育は昔から続いている慣行だ」というのだ。

「しかし、3国関係を教える先生は確実にふえている。それから、来年への提案だが、各国の歴史認識ののすり合わせのため、教員の養成課程を共有するのはどうか。日本の市民運動は反原発で連帯できた。歴史認識でもできるはずだ」……

西欧では半世紀かけて議論

地域における歴史認識を統一し、共通の価値観を構築しようという作業は、西欧地域ですでに先行している。

歴史的に軋轢の多かったドイツとフランスのあいだでは、すでに2006年より共通の歴史教科書が教育現場に導入され、1945年以降のヨーロッパ現代史を教えている。

第2次世界大戦のナチズムの問題について、ドイツがなぜナチスを生んだのか、フランスのビシー政権はなぜ親ナチ政策をとったかなど詳細な検討を行っているのだ。ドイツはまた、同様に被害を与えたポーランドとも合同教科書の制作にかかった。

しかし、ここまでに至る過程において、西欧では実に半世紀もの長い議論を経ている。西欧以上に歴史観の違う東アジア地域が歴史認識を共有するのに、果たしてあとどれくらいの時間を要するのか、注意深く見守っていきたい。

(取材・文/ジャーナリスト 野村旗守)

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