ルポ 日中韓3ヵ国共通歴史教科書会議

かつては中国のシリコンバレー、現在は中国の秋葉原などとも呼ばれる北京市海淀区の中関村。同地に隣接して、中国の国家重点大学の1つ、中国人民大学はある。

去る11月21日と22日、この大学の国際関係学院棟で開かれたのが、「第13回 歴史認識とアジアの平和フォーラム」だった。日本、中国、韓国の東アジア3ヵ国が集まって近現代の歴史観の共有を図ろうという趣旨の国際会議であり、もう少しくだけた言い方をすれば、「東アジア3ヵ国歴史教科書会議」とでも言おうか。2002年の第1回から、今年ですでに13回を数える。

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2014年11月、北京で開かれた「第13回 歴史認識とアジアの平和フォーラム」(撮影:岩村義雄)

このフォーラムの取り組みは3つ。

(1)3ヵ国の専門家たちによる合同歴史会議において、共通の東アジア近現代歴史観を模索する。
(2)3ヵ国共通の東アジア近現代史教科書をつくる。
(3)3ヵ国の子供たちを集め、毎夏、戦争と平和についての理解と学習を促すための合同授業(サマーキャンプ)を行う。

これらの取り組みを通じて、3ヵ国が共通の歴史認識を形成し、その上で地域が経済的にも、政治的にも、文化的にもより緊密に影響しあう「東アジア共同体」を実現しようとというのが、フォーラムの目標だ。まずは日本・中国・韓国の3国からはじめ、最終的にはEU=欧州連合のような東アジアの地域統合体を目指す。

そのためにまず必要なのは、3ヵ国が共通の価値観を持つこと。特に現代史における最大課題である先の大戦をどう捉えるか――が重要ポイントになる。

(2)の3国共通教科書に関しては、すでに2006年と2012年に日中韓共同編集による東アジア3国の近現代史教科書(日本版は「未来をひらく歴史」と「新しい東アジアの近現代史」上下)が3冊発行され、一定の成果を挙げている。――が、果たして、戦争加害国である日本と被害国である中国が、あるいは植民地宗主国だった日本と従属国であった韓国が歴史観を共有することなどできるのだろうか?

2日間にわたり、3国の専門家たちによる白熱の議論が続いた。

安倍晋三総理が「主役」

ホスト役中国側の主催は、中国社会科学院近代史研究所他の5機関。日本側協力機関は子どもと教科書ネット21、韓国側協力機関は韓国国際交流協会だ。

人民大学キャンパスの国際関係学院408会議室で開かれたこのフォーラムに中国マスコミの関心は高かったようで、TVカメラが2台、新聞記者も数人が陣取っている。

フォーラム初日は黄大慧人民大学教授の挨拶ではじまった。

「中日韓3国の学者が一堂に介し、東アジア共同体という1つの目標を目指している。しかしここ数年、日本だけが歴史の進歩から後退しているように見える。……日本の失われた20年は、ただ経済の問題だけではない。より大きく後退したのは歴史問題だ……」

出席こそしていないが、今回の北京フォーラムの主役は間違いなく、日本国総理大臣安倍晋三、ということになろう。そして最大のテーマは、「日本の右傾化」だ。

近現代史における日本人の歴史観を大きく後退させているのが、第2次安倍政権である、と中韓両国の歴史学者他専門家たちは口を揃える。

確かに、中韓両国から見れば、民主党から自民党にふたたび政権交代した日本が大きく?右ブレ?していると見えるのも無理はないが……。特に中国の学者たちの舌鋒が鋭い。例えば、中国抗日戦争史学会会長で中国社会科学院近代史研究所研究員の歩平氏は言う。

「(歴史観共有のため我々が努力してきた)これらの成果を無に帰そうとしているのが、日本の安倍政権だ。靖国参拝、歴史修正主義など、3国の協力関係を壊そうという姿勢が突出している」

「現在、東アジアにおける突出した懸案は、日本の安倍首相に代表される右翼政治家たちである」

「戦後、日本では横暴な軍国主義者はごく少数となり、反戦平和主義が主流となった。このことが、東アジア3国が歴史認識を共有するうえでの基本条件である。しかし、時代は変わり、日本の一部政治家が公然と靖国神社に参拝し、侵略責任を否定している」

……等々。

さらに、中国中日関係史学会の徐啓新副会長兼秘書長もまた、日本の右傾化を手厳しく批判した。

「東アジアは新しい課題に直面している。その震源は日本の第2次安倍政権だ。彼らの目的は戦後の世界秩序を破壊することだ」

「右翼政治家一家に生まれた安倍は、祖父の岸信介の影響を強く受けている。だから祖父の祀られている靖国神社に行きたいのだ」

「安倍は日本大国化のため、集団的自衛権を認め、自衛隊が米軍と一緒になって戦える仕組みをつくった」

「日本の平和勢力の衰退が安倍の思いあがりを許した。もはや安倍は怖いものなく憲法改正を強行できる」

……等々。

靖国、慰安婦、教科書、尖閣諸島……等々、歴史認識と領土の問題で日本人の意識が「ここ数年大きく後退した」と中国の専門家たちは言う。

「日本の内部矛盾が噴出」

その原因を、中国社会科学院日本研究所の胡彭助理研究員は日本社会の現状と照らして、次のように分析してみせた。

「日本ではバブル崩壊後、収入減、少子高齢化、格差拡大、年金制度崩壊……等々、不安要素が山積みになった。一億総中流社会はなくなり、高齢層と若年層の貧困問題が大きな課題となっている」

「現在労働人口の約3分の1が非正規社員。そして阪神大震災、オウム事件等で日本人は自信を失っていった」

「それに対して中韓の経済発展は速い。経済発展と同時に両国民は自信をつけていった。2010年、中国のGDPは日本を抜いた」

「日本の国民は中国に嫉妬し、羨望を抱いている。それをマスコミが扇動して?嫌中?ムードを煽り、中国脅威論の書籍があふれている」

……等々。つまり、日本社会の内部矛盾が人々のあいだに鬱屈を産み出し、その鬱屈と中韓両国への嫉妬が右傾化として噴出しているという解釈だ。

さらに、歴史問題、領土問題における安倍政権の一連の暴走に対し、北京師範大学歴史学院の朱漢国教授は、

「安倍は尖閣諸島を?日本固有の領土?と何度も宣言し、数回に渡って靖国神社を参拝し、集団的自衛権の解禁を推進して平和憲法改正ために必死になっている。これでは、中国民衆の怒りを鎮められるはずがない」

と警告する。そして問題の解決のため、日本政府が取りうる措置として、以下の4点を挙げた。

(1)中国の歴史教育を勝手に批判しないこと。
(2)靖国神社に参拝しないこと。
(3)尖閣問題をめぐっていざこざをおこさないこと。
(4)平和憲法を改定しないこと。

?さらに、会場を交えたフリーディスカッションにおいても、「安倍右翼政権」に対する集中砲火は続くことになった。(つづく)

(取材・文/野村旗守)

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