ノーガードで「攻撃戦」あるのみ

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「北朝鮮国内はITインフラ化が進んでいない。その分だけ攻撃に集中できる」(IT事情に詳しい関係者)

映画「ザ・インタビュー」騒動の前後から、北朝鮮ウェブサイトの接続が不安定になり、23日には「労働新聞」「朝鮮中央通信」が完全にアクセス不能となった。(参考記事

先だってオバマ大統領は「報復」を明言(参考記事)していただけにアメリカ当局の「報復戦か?!」と思われたが、当局の報復にしてはスケールが小さすぎる。そもそも、ソニーに対するハッキングもFBIの捜査結果だけで北朝鮮の仕業と断言することは早急だ。事実、IT専門家からも「本当に北朝鮮の仕業かどうかは疑わしい」という指摘もある。

ただ、一つ断言できることがある。北朝鮮が一般国家よりもサイバー攻撃の能力をもっているということだ。

「ネットワーク社会ではまず攻撃を受けたことを前提にセキュリティに力点を置く。ところがITのインフラが発達していない北朝鮮では、セキュリティを気にせず攻撃だけに集中できる。ノーガードで『攻撃戦』だけを仕掛ける能力を持っているという意味では非常に厄介だ」

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そう語るIT関係者は、あくまでも一般論と前置きしながら次のように語る。

「サイバー攻撃に何百億もかかる軍備は必要ない。一人の天才ハッカーさえいれば可能だ」

コンピューター将棋大会で好成績を収めた北朝鮮チーム

13年前、世界コンピューター将棋選手権に参加した北朝鮮チームの奮闘を取り上げたドキュメンタリー番組を見たことがある。

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チームの名称は北朝鮮のIT技術を開発する国営機関である「KCC(朝鮮コンピューターセンター:Korea Computer Center)」。いわば国家の威信を賭けて日本のコンピューター将棋に殴り込みをかけたというわけだ。朝鮮半島にも将棋はあるが、日本の将棋とはルールが違う。

「日本の将棋がない北朝鮮に勝てるわけがない」

そんな下馬評をよそに、KCCは3位入賞を果たす。番組では北朝鮮プログラマーに焦点を当てていたが、勝利への執念と将棋という異国のゲームに真摯に向き合う姿勢には純粋に好感を持った。同時に「北朝鮮のコンピューター技術侮りがたし」との印象を植え付けた。

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KCCはその後の大会にも参加して最高位は2位。大会を通じて評価を得たのか、北朝鮮が開発した将棋プログラムは、KCCというエンジンでソフト化もされている。もちろん外貨稼ぎを視野に入れた開発だったと思われるが、北朝鮮が古くからIT分野に力を入れていたことがうかがえる。

ところで北朝鮮のIT技術者、とりわけハッキング部隊、いわゆる「サイバー戦士」はどのように育成されているのだろうか。

韓国のネットワークを掌握せよ!

?「サイバー戦士」は、金日成総合大学、金一軍事大学、金策工業総合大学、平壌コンピューター技術大学、モランボン大学(参考記事)などの卒業生から選抜される。専門的な超エリート教育を通じて、部隊に入隊後も、優秀な人材は中国軍のサイバー戦教育機関などに積極的に留学させられる。

「121局」と言われるサイバー部隊を指揮するのは謎の軍事工作機関「偵察総局」だ。韓国国情院が公表した北朝鮮の内部文書「南朝鮮の電算網を掌握せよ」は偵察総局によって作成されている。 また、中国で偵察総局に抱き込まれ北朝鮮が開発したコンピューター・ウイルスが組み込まれたゲームプログラムを韓国内に流通させた容疑で韓国人男性が逮捕されている。(参考記事

サイバー戦のみならず様々な工作活動に関与している偵察総局は、各国の軍事関係者が最も警戒する機関である。本来は、人民武力部傘下であった「偵察局」に、日本人拉致や浸透工作員で知られる「労働党作戦部」、そして対外情報を収集する「35号室」が吸収される形で設置された。正確な規模や能力に関しては未知数な部分も多いが、「軍事、諜報、テロ、全ての能力を兼ね備えた世界最大規模の軍事工作機関」(自衛隊関係者)という指摘もある。

いまのところ、日本がターゲットになりそうな話は聞こえてこない。しかし、この間人権決議案などをめぐって日本を口撃している北朝鮮がいつサイバー攻撃戦の牙をむいてくるかは不透明だ。韓国のハッキング、米ソニーピクチャーズのハッキング。いずれも「対岸の火事」ではない。「今そこにある危機」なのだ。

北朝鮮のIT関連学校
IT技術を学ぶ北朝鮮の学生達/本文とは関係ありません

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記