政府が推奨する「留学生30万人計画」には、諸外国の若者に日本の大学などに留学してもらい、国際親善に役立てようという狙いはもちろんありますが、少子化で絶対数の減った日本の若者の穴を留学生で埋めようという狙いもあることは否定できません。従来、こうした対象として最大のターゲットとなってきたのが、日本の約11倍の人口を擁する隣国・中国です。
しかし経済の急成長もあり、近年、中国の若者の多くは米国をめざすようになりました。こうした傾向は最近の嫌日感情の高まる以前からのことで、前回に述べた「福建省はずし」のようなビザ制限への反発が、いわばダメ押しになった形といえます。こうした流れもあって、目標の半分の15万人にも届かないなかで、ちょうどこの穴を埋めるような形で急増してきたのが親日的で経済成長を続けるベトナムだったのです。
それと同時に、留学希望者を探しては、本人だけでなく時に日越両方の日本語学校から紹介手数料を受け取るブローカーが暗躍するようになってきたのです。偽造書類作成の手伝いも彼らの仕事です。
この場合のブローカーというのは、地方に赴いて学生を探してくる現地人もいれば、これを受け入れる日本人もいます。なかには、授業料よりも手数料の方が高いというブローカーもどきの学校もあります。もちろん、おおっぴらに認める学校はありませんが、複数、それもかなりの関係者がこうした事実を認めています。
ブローカーが手にする紹介料は多い場合、一人当たり50?60万円になるといわれます。この額は平均的なベトナム人労働者の年収の2?3年分にあたります。それでも、留学希望者はこれだけの金額を払っても来日しようとしているのです。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面ならばそのブローカーを排除すればよさそうに思えます。しかしそう簡単ではないのです。学生に入学してもらわなければ経営が成り立たないのは日越共通。そして少子化で入学希望者の減少に悩む日本の大学や専門学校もまた、日本語学校の卒業生をあてにしているからです。
軍隊的規律
私自身、これまでに10数校の現地の日本語学校を何回も見てきました。そこではほとんどの学生が本当に一生懸命、朝から晩まで来日を夢見て日本語を学んでいます。しかも語学学習だけにとどまらず、あいさつから寮でのふとんのたたみ方、ゴミの分別にまで及びます。今の日本ではまず目にすることのない、軍隊的規律というか生真面目すぎるほどの礼儀正しさです。日本はきれいできちんとした国だから、きちんとしたマナーやルールを身につけないといけないと教える側も真剣です。
そんな彼らが日本に来て直面するのは、期待とはかけ離れた厳しい現実なのです。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面昨年11月26日、VTV3(ベトナム放送)は「日本の私費留学への警告」といったタイトルの特集番組をオンエアしました。中国人が来日しなくなったこともあり、空いた人数を埋めるべくベトナム人私費留学生がここ1年間で1000人から6000人くらいにまで急増しているとしています。そして、線路沿いのアパートを背景にベトナム人レポーターが「1LDKに8人、日本に来たら2?3ヶ月で稼げるので私費留学でも返せるという、ブローカーの甘い言葉に騙されるベトナム人が多い」と声を張り上げていました。さらに今年1月には、毎日新聞も貧困失踪留学生が増えている、とする記事を掲載しました。
こうした動きもあってでしょうか。ここにきて当局側も残高証明に変えて、納税証明番号を記載するようにといった手直しで、とくに私費留学生を制限する姿勢をみせるようになったのです。(つづく)
(取材・文・写真)
坂内 正(ばんない ただし)
ファイナンシャルプランナー、総合旅行業務取扱管理者。政府系金融機関で中小企業金融を担当。退職後、旅行会社の経営に携わり、400回以上の渡航経験を持つ。ロングステイ詐欺疑惑など、主にシニアのリタイアメントライフをめぐる数々のレポートを著す。著書に『年金&ロングステイ 海外生活 海外年金生活は可能か?』(世界書院)。ミンダナオ国際大学客員教授。『情報と調査』編集委員
※この連載は『情報と調査』2014年6月30日号掲載の記事を再構成したものです。