金正恩体制が、人権問題で窮地に立たされつつある。

北朝鮮における人権侵害がアジアで最悪の部類に入ることはかねてから知られてきたが、国際政治の主要な議題となったのはこれが初めてだ(関連記事)。

たとえ中国やロシアの反対で国連での動きが停滞しようとも、今後、この問題は金正恩体制の弱点として、対立する国々からねらわれ続けるだろう。

拉致の「リスク」を気にしない国

この機に、北朝鮮の何が問題なのかを整理しておきたい。

最も大きな問題は、独裁体制ならではの、冷酷かつ身勝手な思考と行動方式にある。

いま、北朝鮮の国民はたいへんな困難の中に置かれている。

国家はただでさえ慢性的な経済難の中にあるのに、無謀な核兵器開発などのために国際的な経済制裁さえ受けている。豊富な地下資源があるにもかかわらず、韓国や日本、米国などとの自由な貿易で外貨を稼ぐのもままならない。そのため、国内生産では足りない食糧を海外から十分に買ってくることさえできず、人々は飢餓の恐怖と隣り合わせの生活を強いられている。

これが日本などの民主主義国家であれば、国民は核兵器開発を強行した政権与党を選挙で敗北させ、国際社会との調和を重んじる新たな政府を誕生させるだろう。

しかし独裁体制の権力者は、そのようにして責任を問われることがない。国民が反発の声を上げようとしても、残忍な秘密警察や治安機関を使い、暴力や恐怖心で抑えつけてしまう。

だから、なおさらやりたい放題が加速する。

日本人拉致も、そのような構図で起きたと言うことができる。北朝鮮の工作機関は、韓国にスパイ工作をしかけるために、拉致した日本人の身分を利用していた。彼らにとっては、ほかの方法で韓国に工作員を浸透させるよりも、無防備な日本人を拉致するほうが簡単だったのだろう。

仮に、北朝鮮が民主主義国家だったなら、日本人拉致が露呈した場合のリスクをもっと慎重に考えたはずだ。拉致がバレれば、日本との関係は当然、険悪になる。そして貿易が細るようなことになれば経済情勢が悪化し、政府は国民からの猛烈な批判にさらされる。そのようなリスクを検討した末に、拉致の選択肢を封印したはずなのだ。

北朝鮮は、そのような考え方をしない国なのである。

今後、北朝鮮が日本人拉致を再発させることがないとしても、別の形で日本に被害が及ぶ可能性は捨てきれない。たとえば、北朝鮮と韓国の戦争だ。日本の間近で、日本の重要な貿易相手国である韓国と核武装した北朝鮮が戦争に突入すれば、経済への影響は避けられないだろう。

いま北朝鮮が、圧倒的優位にある韓国と米国の連合軍に全面戦争をしかけてくるとは考えられないが、「突発事態」はあり得る。何しろ、北朝鮮が意図的に「突発事態」の危機を演出しているぐらいだから、その可能性は決して低くないのである。

民主化で分け合う「安定」

では、北朝鮮にこのような行いを止めさせるには、どうすれば良いのか。

想起して欲しいのは、抑圧されている北朝鮮の国民の利益と、地域の安定を望む周辺各国の人々の利益は、大きなところで一致しているということだ。

厳しい経済難からの脱出を望んでいる北朝鮮の国民は、周辺各国との経済協力を何より望んでいるはずだ。核開発を放棄することで確実に経済協力を得られるとなれば、ほとんどの北朝鮮国民は賛成票を投じるだろう。

問題は、北朝鮮の体制にはそうしたシステムがないということだ。つまり、北東アジアの安定のためには、北朝鮮には民主化が必要なのである。

北朝鮮に民主化が必要だとの主張は、単なる理念だけの問題として出てきているのではない。また、北朝鮮国民の生活のためだけに言われているわけでもない。

独裁体制の冷酷かつ身勝手な思考と行動を排除し、地域の人々が安定と平和を分け合うために、必ずクリアしなければならない課題なのだ。
(文/ジャーナリスト 李策)

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