朝鮮中央TVキャプチャー
朝鮮中央TVキャプチャー

金正恩政権発足直後、金正恩の最初の誕生日(2012.1.8)を迎え、北朝鮮のTVが放映した金正恩の記録映画のワンシーン。先軍政治の指導者像を強調するため、戦車に乗った姿を紹介したと思われる。しかし撮影者が最高指導者を見下ろす告}は、北朝鮮ではタブーとされる撮影法だ。同画面で彼の姿は「最高司令官」のイメージというより「下級兵士」のイメージに近い。

北朝鮮住民の間で金正恩に対する呼称として「最高尊厳」という単語が流行しているという。新義州の消息筋は15日、デイリーNKとの通話で「最近は『元帥様』(金正恩氏)という表現よりも『最高尊厳』という表現がよく使用されている」と紹介した。

北朝鮮は韓国メディアが金正日、金正恩に対する真相を報道するごとに「最高尊厳冒涜」であると反発してきた。「最高尊厳」は北朝鮮の韓国に向けた威嚇用「プロパガンダ」で最も登場頻度が高い用語のひとつだ。北朝鮮メディアは「南朝鮮メディアが金正恩同志を中傷した」という否定的な意味の文章を使用する場合、これさえも金正恩の権威を毀損するとして、「金正恩」を「最高尊厳」という抽象名詞に置き換えてきた。

14日、北朝鮮の対韓国機関祖国平和統一委員会(祖平統)は、デイリーNKと一部の韓国メディアが下足のまま孤児院の室内に入った金正恩の姿を指摘したことを取り上げ「最高尊厳を悪辣に中傷するという耐え難い妄動を働いた」と反発したのが代表的な事例といえる。

しかし北朝鮮住民が使用する「最高尊厳」のニュアンスは微妙に異なる。消息筋によると、住民は「今日は最高尊厳はどこに行った?」「今回最高尊厳が00で行事を組織したらしい」などと使用している。消息筋は住民が使用する「最高尊厳」という単語には尊敬心が込められていない。

このように住民が「最高尊厳」を金正恩に対する卑称として使用するようになったのは、昨年12月の張成沢処刑以降と推定される。北朝鮮当局が対南用隠喩(metaphor)だった「最高尊厳」を内部用にも適用したのが発端となった。

北朝鮮は張成沢の処刑直後、内部統制を強化する目的で住民に「4大指針」を下した。韓国の警察庁に該当する人民保安部は ▲最高尊厳の毀損禁止▲キリスト教をはじめ各種迷信行為禁止 ▲麻薬禁止 ▲韓国ドラマなど不純録画物の視聴及び流布禁止といった4種類の禁止事項を提示。「違反時は厳罰に処する」と警告した。

当時の4大指針では「元帥様(金正恩氏)の最高尊厳毀損に該当する罪に対しては容赦なく極刑に処する」との内容が最初に位置している。消息筋は「韓国の放送や新聞で『南朝鮮が我々の最高尊厳を冒涜した』という表現が頻繁に登場したが、住民に『最高尊厳を毀損してはいけない』という命令が下されたのは当時が初めてでは」と話した。

北朝鮮は1960?70年代に金日成の権力独占と金正日の後継告}を確立。「党の唯一思想10大原則」を通し、最高指導者の権威を維持してきた。同大原則は北朝鮮の法体系を超越する効力を持つ。皮肉なことに北朝鮮憲法には、最高指導者冒涜に関する規定は無い。最高指導者の冒涜は10大原則の適用だけで即時処刑や政治犯収容所への拘禁が可能となる。そのため北当局が立法の必要性すら感じていないのではとの分析が出ている。

昨年には金日成に対する忠誠義務を骨子とする従来の10大原則が、金日成-金正日に対する忠誠義務を内容とする新しい10大原則に改正された。新しい原則は計10条60項で構成され、全ての項は「?しなければならない」で終わる。「?してはいけない」という表現は無い。

人民保安部は「最高尊厳を毀損してはいけない」という形式で住民教養を実施したが、住民側では多少馴染みの無いプロパガンダ方式であったとも考えられる。逆に誰かが金正恩の尊厳を冒涜しているため、「冒涜してはいけないという指針が出たのでは」という解釈も可能だ。

消息筋は「人民保安部の指針が下された後、幹部の間で『最高尊厳』という用語がよく使われたが、しまいには住民も『最高尊厳』と話すようになった。テレビを見ながら『最高尊厳の横の人間は誰だ』と冗談交じりに話したりする。最高尊厳という用語は国が最初に使用したため、住民が最高尊厳を口にしても保安員は取り締まることができない。『最高尊厳という用語を使うな』と言うわけにもいかず、『この用語をもっと使え』と言うことも出来ない状況」と話した。

こうした現象と関連し、住民の間で金正恩の象徴的なイメージがまだ完成していないことが原因との分析も出ている。

咸鏡北道の消息筋は「昨年までは児童絵本『少年大将』になぞらえ『スェメ大将』という(金正恩に対する)別称が流行した。元帥様に対しては首領様(金日成氏)、将軍様(金正日氏)のように一般化した敬語がまだない」と話した。

北朝鮮で最も有名なアニメーションと評価される「少年大将」では、外敵と内部スパイに対抗し国を守る主人公の少年「スェメ」の活躍が描かれている。「スェメ」とは「鉄の棒」という意味。咸鏡北道の国境地域の住民は、金正恩体制発足以降、国境統制と処罰が強化されていることに不満を抱いており、金正恩を「スェメ大将」と呼んだりもすると消息筋は説明する。

金正恩は後継者として公式に登場するまで「セッピョル将軍」「青年大将」などと呼ばれてきた。2010年に公式に後継者として登場してしばらくは、「尊敬する大将同志」と呼ばれることもあった。現在、労働新聞などの北朝鮮メディアは、状況に応じて「元帥様」「将軍様」「同志」「閣下」などと複数の呼称を使用している。

2月の離散家族再会行事に参加した北側家族の間でも呼称の不統一性が垣間見れた。当時、北側家族は金正恩を表現する際、「将軍様」「元帥様」「指導者同志」などと多様な呼称を使用した。間違った呼称ではないものの、金正恩がすぐに思い浮かぶ呼称ではなかったといえる。

呼称に限ってのみ言うならば、3代父子世襲と若い年齢という金正恩のハンディキャップは現在進行中だ。個人の偶像化に関しては「現存最高」と評価される北朝鮮の宣伝扇動技術がみすぼらしく見えるほどである。

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