北朝鮮と中国の間で、民間レベルの経済関係に目に見える亀裂が生じている。中国から原材料を受け取り、北朝鮮で加工した製品を再び中国に輸出する「委託加工ビジネス」をめぐり、北朝鮮側の納品遅延や連絡途絶、完成品の横流しとみられる事例が相次いでいるためだ。長年、制裁下の北朝鮮経済を下支えしてきた分野で信頼が急速に損なわれており、中朝関係の不協和音が、経済の最前線にも及び始めている。
中国のデイリーNK対北消息筋によると、中国人事業者から発注を受け、かつらなどの加工を請け負っていた北朝鮮の貿易会社が、約束した納期を守らないまま連絡を断ち、姿を消す事案が発生した。中国側は10万元規模の損害を被ったとされ、完成品が第三者に転売された可能性も指摘されている。同様のケースは電子部品の組み立てなどでも確認されており、中国人事業者の間では「北朝鮮との取引は危険だ」との認識が急速に広がっている。
こうしたトラブルは以前から散発的に起きていたが、最近は頻度が増しているとされる。北朝鮮側が目先の利益を優先し、契約や信用を軽視する姿勢を強めているとの見方もある。被害を訴え出た中国人事業者が北朝鮮の保衛機関に調査を求めても、実効的な対応が取られた例はほとんどなく、「国家として問題を放置している」との不満も強い。一部では、「北朝鮮とは二度と取引しない」として東南アジアの加工業者へ移行する動きも出ている。
この経済的な摩擦と軌を一にするように、政治・外交面でも中朝関係の冷却を印象づける動きが目立つ。北朝鮮メディアは1月、金正恩総書記が中国の習近平国家主席夫妻に送った新年の年賀状を、極めて簡略な形で報じた。習主席の名前には触れず、他国首脳と並列的に扱ったうえ、年賀状の内容も一切紹介しなかった。習近平氏にとっては、公開の場で侮辱されたも同様の扱いと言える。
(参考記事:届いた食糧「たったこれだけ」…プーチンと習近平にしてやられた金正恩、経済危機に突入)
ロシアのプーチン大統領との祝電や書簡のやり取りを連日大きく報じ、「不敗の親善」「戦闘的友誼」と強調する姿勢と比べると、中国への対応は異例の素っ気なさだ。外交筋からは、対中不満を意図的に誇示する「冷却演出」との見方も出ている。中国が国連安全保障理事会の対北制裁を維持していることや、韓中首脳外交の再開が、北朝鮮側の神経を逆なでしているとの分析もある。
もっとも、こうした政治的な距離の取り方とは裏腹に、北朝鮮経済の実態は依然として中国に大きく依存している。貿易総額の大半は中国向けであり、食料、エネルギー、生活必需品の多くが中国経由で流入している。委託加工ビジネスの混乱は、北朝鮮自身の外貨獲得手段を狭める行為でもあり、長期的には自らの首を絞めかねない。
ロシアとの接近を前面に押し出す北朝鮮だが、ロシアが提供できるのは軍事や政治的後ろ盾が中心で、中国が担ってきた日常的な経済基盤を代替するには力不足だ。民間取引の信用が崩れ、政治関係まで冷え込めば、最も大きな打撃を受けるのは北朝鮮自身である。
対中不満を強め、冷淡な態度を誇示する北朝鮮。しかし、委託加工ビジネスの亀裂が示すのは、感情的な対立とは別次元で進む「依存構造の現実」だ。中国との関係を損ねながらも、なお中国抜きでは立ち行かない――その矛盾こそが、現在の北朝鮮を象徴している。金正恩氏が習近平氏への「侮辱」を公開させられる日も近いかもしれない。
