戦略経済協力特使としてカナダを訪問した韓国の姜勳植(カン・フンシク)大統領秘書室長が29日、現地の政府高官らと面会し、カナダが進める次期潜水艦導入計画をめぐり韓国企業の受注支援に乗り出した。韓国側は防衛産業輸出の拡大を狙うが、カナダ政府が調達条件として大規模な産業投資を求めているとの報道もあり、交渉は容易ではないとの見方が強い。
カナダが計画する新型潜水艦導入は最大12隻規模とされ、調達と運用支援を含めた総事業費は数百億カナダドルに達する可能性がある。最終候補には韓国のハンファ・オーシャンとHD現代重工業の連合のほか、ドイツのティッセンクルップ・マリン・システムズ(TKMS)などが残っており、韓国政府は官民一体で売り込みを強めている。
今回の訪問で注目されたのは、現代自動車グループのトップが同行した点だ。カナダ側が潜水艦発注と引き換えに自動車工場の建設を求めたとの観測が浮上しており、防衛契約を産業政策と結びつける「オフセット取引」が交渉の焦点となっている。
ただし現代自動車側は、現時点でカナダ国内に新工場を建設する計画はないと明言している。北米ではすでに米国を中心に生産網を構築しており、追加投資には慎重姿勢を崩していない。韓国側としても巨額の現地投資を約束すれば、潜水艦事業そのものの採算性が損なわれかねず、交渉カードには限界がある。
(参考記事:ポーランドはなぜ韓国製潜水艦に背を向けたのか)
こうした事情から、韓国政府内部でも受注を楽観視する声は少ない。背景には、競争相手であるドイツ勢が優位とされる構造的要因がある。
第一に、カナダ海軍は長年、NATO標準との互換性を重視してきた。ドイツの潜水艦は欧州諸国で広く運用実績があり、同盟国との共同作戦や整備体制の面で「既存の枠組みに組み込みやすい」との評価が根強い。
第二に、TKMS側は潜水艦の供給にとどまらず、現地産業への波及効果を前面に出した包括的提案を行っているとされる。技術移転やカナダ企業との共同生産、整備拠点の設置などを組み合わせ、国内雇用創出を求めるカナダ政府の要求に応えようとしている。
第三に、韓国製潜水艦は性能面で高い競争力を持つ一方、カナダ側にとっては運用実績や長期支援体制が未知数との指摘もある。欧州勢は伝統的に潜水艦輸出の経験が豊富であり、調達後数十年に及ぶ運用・補給契約を含めた信頼性が強みとなる。
さらにカナダ側の条件は、防衛装備の調達を超えて経済政策と一体化している点でハードルが高い。潜水艦建造能力に加え、長期的な運用支援体制、部品供給網、現地企業との連携などが求められ、単純な価格競争では決着しにくい構図となっている。
韓国にとって今回の案件は、防衛産業が欧米市場で存在感を高める重要な機会となる。受注に成功すればNATO諸国への輸出拡大にもつながるとの期待がある。一方で、産業投資要求への対応を誤れば、過度な負担を背負いかねない。
カナダ政府は2026年中にも最終決定を行う見通しとされる。韓国側は首脳レベルの外交支援を継続しつつ、潜水艦供給を超えた戦略的協力の枠組みをどこまで提示できるかが今後の鍵となりそうだ。
