ここ最近、金正恩ファミリーの振る舞いをめぐり、北朝鮮内部で静かな違和感と疑問の声が広がっている。12月15日、金正恩氏は地方工場の竣工式に妻・李雪主氏、娘の主愛(ジュエ)氏を伴って出席し、半年ぶりに「親子3人」がそろう姿が公開された。金ジュエ氏は高級ブランドとみられるロングコートを羽織り、李雪主氏は庶民には到底手の届かないグッチの高級バッグを携えていた。
一方、金与正氏は18日の地ビール工場でビールを振る舞うなど、対照的な“庶民派”演出も目立った。しかし金正恩氏自身は、食品製造ラインに衛生対策もないまま入り込み、製品や設備に直接触れるなど、不衛生極まりない行動を見せている。20日の三池淵市ホテル竣工式では、金正恩父娘がまるで恋人同士のように密着するシーンが報じられた。
この様子は、北朝鮮社会に根強い儒教的価値観や、指導者に求められてきた「道徳性」「品位」のイメージと著しく乖離しているとの見方が広がり、「おぞましい」「いくら元帥様でも行き過ぎだ」といった否定的な反応も静かに伝えられている。
最高指導者一家を批判すること自体が極めて困難な体制を考えれば、異例の兆候と言える。
背景には、最近顕著な「主愛中心」の演出がある。李雪主氏が同行していても画面上では後景に退き、主愛氏が常に金正恩氏の隣を占め、軍事だけでなく経済・民生分野の現場にも同伴する。服装も子ども向けブランドから大人びたコートやスーツへと変化し、高位幹部が深々と頭を下げる姿まで放映された。三池淵では金正恩専用車に二人きりで乗車する場面も公開されている。
脱北外交官の柳賢宇(リュ・ヒョヌ)氏によると、金正恩氏は最高指導者になってから3年後の2014年、「国政を一人で背負うのはきつい。全て投げ出したくなる時もある」と弱音を吐きながらも、「ジュエの未来のためにも、私は弱くなってはいけない。ジュエは私にとってのブドウ糖だ」と述べたという。そして10年を経た今、金正恩氏は「ジュエにこの国を任せる」と決意した可能性が高い。
金正恩氏が後継者と位置づける娘ジュエ氏に過度な愛情と期待を注いだ結果、それが親子の「おぞましい」と受け止められかねない振る舞いとして表出しているのだとすれば、最高指導者の品格と道徳的権威そのものを、自ら損ねていると言わざるを得ない。
