タイとカンボジアの国境紛争が熱を帯びる中、タイ空軍がF-16戦闘機を動員した爆撃で主導権を握っている。こうした強硬姿勢の背景につい専門家の間では、支持率が低迷する現政権が「力の可視化」を急いでいるとの見方が強い。とりわけ、今夏に起きた限定的な軍事衝突で、韓国製の誘導兵器を活用して成果を上げたタイ側の経験が、戦闘拡大を後押ししているとの指摘も出ている。

注目されるのが、韓国の防衛企業が開発したKGGB(Korean GPS Guided Bomb)だ。KGGBは、従来の無誘導爆弾に装着する「誘導・滑空キット」で、GPSと慣性航法装置(INS)を組み合わせることで高い命中精度を実現する。投下後に展開する翼により、数十キロ以上のスタンドオフ攻撃が可能で、敵防空圏外からの安全な打撃を可能にする点が最大の特徴だ。既存のMk-82など汎用爆弾を活用できるため、コスト効率が高く、F-16をはじめとする多くの西側機との統合も容易とされる。

タイ空軍はこの夏の衝突でKGGBを用いた精密攻撃を実施し、限定的ながら目標を的確に無力化した。悪天候下でも安定した誘導性能を示したことが、現場の評価を高めたという。結果として「高価な巡航ミサイルに頼らずとも、抑止力を誇示できる」との認識が、軍と政権中枢に共有されたとみられる。ちなみに当時、カンボジアはタイ軍がKGGBを使ってカンボジアの実権者父子、フン・セン上院議長とフン・マネット首相を暗殺しようとしたと主張し、両国間の摩擦がいっそう激化した。

国内では物価高や政局不安を背景に政権支持率が伸び悩む。こうした状況下で、国境での軍事的優位を示すことは、治安と主権を守る姿勢を有権者に訴える材料になり得る。KGGBという“成功体験”が、空軍の作戦オプションを広げただけでなく、政治判断にも影響を及ぼしている可能性は否定できない。もっとも、衝突の長期化は地域の不安定化を招く。精密兵器の有効性が示された今こそ、軍事力の誇示ではなく、外交的解決への回帰が求められている。