北朝鮮は「労働を重視する社会」の実現を掲げ、2023年10月の内閣決定に基づき、機関・企業所の労働者の月給を最低でも10倍以上に引き上げる大幅な賃上げに踏み切った。勤労意欲の喚起とともに、「国家経済が回復している」とのメッセージを内外に示す狙いがあったとみられる。
「コメの確保もままならない」
しかし現場では、国家が定めた賃金がそのまま手元に渡らないケースも少なくなく、賃上げが生活水準の向上に結び付いていないとの指摘が後を絶たない。とりわけ、賃上げ後もコメや食用油、小麦粉などの基本食料品の価格上昇に加え、ガソリンやディーゼル燃料の高騰による輸送費の上昇、さらにはドル・人民元相場の急騰が続き、「給料は上がったのに生活はかえって苦しくなった」との不満が各地で噴出している。
国家的な賃上げ措置は、住民生活にプラスの効果をもたらすどころか、物価負担の増大を招いたとの見方が強い。
こうした中、デイリーNKは賃上げから2年を迎えるのを機に、平安南道のある企業所で働く労働者にインタビューを実施し、現在の賃金水準や実態、生活状況について話を聞いた。
(参考記事:プーチンが「派兵報酬」払わず金正恩が窮地…「実績乏しい」とロシアが難癖)
以下はその一問一答である。
――現在の月給はいくらか。
「今は基本が6万ウォンです。金になる製品の生産に関わると、10万ウォンを受け取ったこともあります」
――月給は現金で支払われるのか。
「はい、基本は現金です。ただ、祝日にはコメや油、トウモロコシなどの現物が配られることもあります。正直、物価が高すぎるので現物の方がありがたいです」
――賃上げ後、職場の雰囲気に変化はあったか。
「出勤率は多少上がりました。ただ、市場での商売でより多く稼げる人は、今でも職場にあまり出てきません」
――同じ職場でも職種によって賃金差はあるのか。
「あります。外貨稼ぎ部門は以前から高く、今は差がさらに広がっています。短期の動員労働は固定労働者より少ないなど、不公平感は依然として強いです」
――受け取った月給は主に何に使っているのか。
「コメなど主食の確保もままなりません。おかず代や暖房費も自分で何とかしなければなりません。賃金で商売や投資をするなんて、ほとんど夢のまた夢です」
――物価高についてどう感じているか。
「賃金が上がったのは事実ですが、物価の上昇の方が激しく、不満が多いです。コメ、油、燃料、石炭など、すべてが値上がりして追いつけません。中でもドルが高すぎて、北朝鮮ウォンでは生活が成り立ちません。外貨を持っている人だけが得をしたと言われています。賃上げが助けになる人も一部にはいますが、根本的な解決策ではないという空気です」
