ウクライナでロシア軍によって連れ去られた未成年者の一部が、北朝鮮の江原道元山市にある「松涛園国際少年団キャンプ」(旧・松涛園中央少年団キャンプ場)に送られ、思想教育と軍事的訓練を受けている可能性が浮上した。松涛園は1960年開園、社会主義圏の少年組織の交流拠点として、半世紀以上にわたり共産圏の青少年らに社会主義教育を施してきた施設として知られる。
「反米・反日」教育 エリート教育の可能性も
問題の証言が示されたのは、今月3日に米ワシントンで開かれた上院公聴会である。ウクライナの人権団体「地域人権センター」の法務専門家カテリナ・ラシェウスカ氏が、「ロシアに拉致された子どもたちのうち、少なくとも2人が北朝鮮の松涛園キャンプに送られた」という調査結果を報告した。同氏によれば、12歳の少年と16歳の少女が対象で、祖国からおよそ9000キロ離れた地で反米・反日教育や軍事的志向の教育を受け、「日本の軍国主義者を破壊せよ」と指導されているという。
ロシアは、占領地域から連れ去った未成年者について「保護」や「避難」を主張しているが、ウクライナ側は国際法に違反する「強制移送」であり、国家的な「ロシア化(Russification)」政策の一環だと糾弾。戦時下で孤立した子どもたちを自国文化から切り離し、ロシア語教育や軍事訓練を施すことで、将来の兵士や政権忠誠層、さらには海外でロシアの利益を代弁する人材へと育成する狙いがあるとみている。
松涛園キャンプは、北朝鮮が友好国の青少年を招き、「社会主義的価値観」を共有してきた象徴的施設だ。ロシアと北朝鮮は軍事協力を強化するなかで、同キャンプを利用し「反西側」思想教育を外注している構図が浮かぶ。今回の証言は、拉致されたウクライナ児童を対象に、北朝鮮が思想教育の受け皿として組み込まれている疑惑を初めて具体的に示したものとなる。
国際社会はすでにロシアに強い非難を向けているが、本件は新たな外交波紋を呼ぶ可能性が強い。ウクライナ側は「子どもたちの即時返還」を求めており、事実関係の国際的検証が急がれる。
