北朝鮮の金正恩総書記が参加する行事は「1号行事」と呼ばれ、最も重要視されるイベントだ。国営テレビは労働者と軍人が整然と並び、華やかな雰囲気で指導者を迎える姿を放送するが、現場の実態はまったく異なると韓国の独立系メディア「サンドタイムズ」が伝えた。
北朝鮮市民の証言によれば、式典は午前9時開始でありながら、動員された数千人は午前3〜4時には現場集合を命じられ、周囲に何もない野外で、身動きもできない状態のまま長時間立ち尽くす。
最も深刻なのがトイレ問題で、仮設トイレすら存在せず、列を離れることも許されない。人々は取り囲む形でその場にしゃがみ込んで用を足すしかなく、羞恥と不衛生が続く中で、ただ時間が過ぎるのを待つしかない。金正恩氏は「タワマン好き」として知られるが、見栄えのいい高層マンションのトイレ事情が最悪だったりするなど、北朝鮮当局が衛生管理を怠っていることがうかがえる。
金正恩氏が出席する式典は、衛生や安全より“演出”が最優先される。
主席台からよく見える前列には体格の良い“テレビ映え”する人物だけが配置され、痩せた人や衣服が貧相な人は後方へ追いやられる。会場中央には巨大なスローガン板が置かれ、その裏側に回された参加者は主席台を見ることすらできず、板の裏面に向かって立ち続ける。撮影時には前列だけが映され、後方の軍人のボロボロの服装は画面から排除される。ある消息筋は「これが本当に1号行事なのかと思うほどだった。映らないから誰も気にしない」と振り返る。
こうした証言は、北朝鮮当局が宣伝する「人民の幸福のための建設」と、実際に現場で消耗される労働者の生活との落差を浮き彫りにしている。
平壌中心部の再開発や住宅建設は「速度戦」として繰り返し指示される一方、労働者や軍人の生活環境はほとんど改善されていない。幹部らが優先するのは成果の誇示と“映像の見栄え”であり、現場の条件は後回しにされる。消息筋は「住民の暮らしは少しも良くなっていないのに、テレビの宣伝映像だけが豪華になっていく」と語る。着工式の舞台裏は、北朝鮮の統治構造の歪みを象徴していると言えるだろう。
