北朝鮮・黄海北道に駐屯する朝鮮人民軍第2軍団が、来月1日から本格化する冬季訓練を前に、兵士へ「栄養価の高い食事を提供せよ」という上級指示を受け、急遽対応に追われている。だが、その負担は部隊ではなく軍官(将校)家族に押しつけられ、妻たちの不満が高まっていると北朝鮮内部から証言が寄せられた。
冬季訓練は、北朝鮮軍が毎年12月から翌年3〜4月まで実施する長期・高強度の寒冷地訓練で、兵士の戦闘力維持が課題となる。第2軍団は体力低下を防ぐ目的で「栄養食」支給を強調したが、部隊の食糧事情は慢性的な不足状態にあり、実行可能性は極めて低い。金正恩氏が先月、今年進水した駆逐艦「崔賢号」を視察した際、最高指導者の配慮で振る舞われたご馳走によって非常事態が発生したという笑えない事件も起きている。
原則として、部隊は付属農場や家畜飼育で兵士の食事を賄う建前だが、物資不足が深刻な現状ではまともな栄養食を準備できず、結果的に軍官家族が穴埋め役を担わされている。
内部消息筋によれば、軍官たちは班を組んで日ごとに食事準備を担当し、妻たちは家財を売ったり物々交換に出向くことで材料をかき集めているという。軍官家庭には一般住民より多少の配給はあるものの現金収入は乏しく、家計を削って特食を整えるしかない。平山郡の直属部隊では「週1回の肉入り特食」提供を目標に掲げたが、家計の逼迫は避けられず、家庭内不和に発展するケースもあるとされる。
同様の指示は両江道の第10軍団傘下にも下り、妻たちの間で不満が急速に広がっている。約100人規模の兵士に食糧を準備する負担は現実離れしており、「夫が軍官というだけで、一生家事・農作業・家畜の世話に加え、軍の食事まで背負うのか」との嘆きが出るほどだ。
国家は軍を「党の軍隊」「首領の軍隊」と称しているが、実態は兵士の食事すら部隊が確保できず、その責任を民間の家族へ転嫁する構造が放置されている。前線の兵士の栄養補給という名目の指示は、北朝鮮社会の慢性的な物資不足と負担の私的転嫁を改めて浮き彫りにした形だ。
