韓国の防衛産業が、中東で新たな大型市場を切り開きつつある。17日からの李在明(イ・ジェミョン)大統領のアラブ首長国連邦(UAE)への国賓訪問を機に、両国間の協力が文化からエネルギー、防衛まで多岐にわたり拡大。特に防衛分野では、韓国企業が主導する“多層防空網”構築を軸に、将来的に150億ドル規模へ成長し得る巨大プロジェクトが動き出した。
産業通商資源部は19日、アブダビで開かれた「韓・UAEビジネスラウンドテーブル」で、両国企業・機関が計5件の覚書(MOU)を締結したと発表。文化分野2件、エネルギー・インフラ2件に加え、防衛分野ではLIGネクスワンがUAE防衛企業カリドゥスと、短・中・長距離を統合した防空システム構築に向け協力するMOUを結んだ。2022年に韓国製中距離地対空ミサイル「天弓-II(M-SAM)」がUAEへ初輸出されて以降、韓国防衛産業にとって再び大きな転機となる。
韓国防衛産業に中東で“生態系”構築の好機
韓国の防衛大手各社は今回の外交成果を契機に、中東地域に“K-防衛生態系”を丸ごと構築できるとの期待を強める。単なる兵器販売にとどまらず、技術移転や共同生産による“戦略的パートナー”としての地位を確立しつつある。
中心的存在は韓国最大の防衛企業・ハンファエアロスペースだ。同社はUAEとM-SAM導入で既に本契約(約35億ドル)を結び、UAE軍は同システムの実戦配備状況を公開するなど、防空網の中核に据える姿勢を明らかにした。さらに長距離迎撃システム「L-SAM」についても、UAE国営防衛企業エッジ・グループと協力シナリオを協議中で、現地生産や技術移転の可能性まで議論が進んでいる。
(参考記事:韓国原潜に静かな批判「時代遅れ」「技術革新に逆行」)
ハンファが主導する「天弓+L-SAM」による多層防空網は、今回の150億ドル規模プロジェクトの“柱”となると業界は見ている。
一方、地上戦力ではK9自走砲が有力候補として浮上。ハンファはポーランドやエジプトでK9の性能・納期競争力を証明しており、UAEやサウジアラビアとの交渉も進行中だ。中距離・長距離迎撃システムと組み合わせた“総合パッケージ輸出”の可能性も取り沙汰されている。
韓国防衛産業の輸出、過去最高の勢い
航空分野では韓国航空宇宙産業(KAI)が、UAEを次世代戦闘機と輸送機の戦略市場と位置付ける。韓国空軍とUAEは今年4月、次世代戦闘機「KF-21ボラメ」に向けた協力意向書を締結。UAEのパイロットや国防関係者が既にKF-21の飛行試験に参加している。
UAEは米欧製の既製戦闘機ではなく、韓国やトルコなどと共同開発し、自国の要求を反映した機体を獲得する方向に関心を寄せている。韓国側は中型輸送機「MC-X」共同開発とも連動させた“大型パッケージ”を視野に入れる。KAIにとってUAEは、中東・北アフリカへの“輸出ハブ”確保を左右する最重要顧客でもある。
欧州市場でK2戦車の“大ヒット”を飛ばした現代ロテムも、中東市場参入を加速する。ポーランドとは65億ドル規模のK2供給・現地生産に合意しており、この実績を武器に中東の18兆ウォン規模の戦車・装甲車需要に挑む。K2の共同生産モデルがUAEとの協力議題に上がっているとの観測も出ている。
長年中東と深い関係を築くLIGネクスワンは、天弓シリーズなどのミサイル輸出実績を持ち、これまでに12兆ウォン規模の契約をまとめてきた。同社は中東・北アフリカ・アジアを結ぶ「K-防空ネットワークベルト」構築を掲げ、今回のUAE協力にさらなる拡張の糸口を見いだしている。
韓国の主要防衛4社(ハンファエアロスぺース、現代ロテム、KAI、LIGネクスワン)の今年1〜3四半期の輸出額は27兆2千億ウォンと、前年年間の2.6倍に急増し、年内に30兆ウォン到達が確実視される。4社の受注残高は総額100兆ウォンを突破しており、向こう数年にわたり“フル稼働体制”が続く見込みだ。
特にハンファはK9自走砲や多連装ロケット「天武」の輸出が寄与し、輸出比率は67%に達した。現代ロテムもポーランド向けK2供給が収益を押し上げ、過去最高の業績を更新中だ。
UAEはGDP比5.2%という世界屈指の国防予算を持ち、米・欧のほかアジアにも調達先を広げている。韓国は米欧と比べ技術移転や共同開発の柔軟性が高い点が評価を受けており、UAEのドローン・無人機配備事業でも候補国として注目されている。
韓国政府と財界トップが直接“防衛セールス”に乗り出したことで、業界には「これから10年続く大型パッケージ輸出の入り口が開かれた」との期待が広がる。今回のUAE協力は、韓国防衛産業が中東全域へ拡大する転換点になりつつある。
