平壌・和盛(ファソン)地区に登場した「和盛コンピューター娯楽館」が、若者を中心に人気を集めている。一方で、その実態は徹底した監視体制と思想統制が張り巡らされた「戦略的装置」であることが、複数の消息筋の証言で浮かび上がっている。

同施設は午後1時から夜9時まで営業し、入館時には身分証や学生証の提示が必須。入退場時刻、使用した端末番号、利用時間などすべてが記録され、月額利用カードも登録制で履歴は丸ごと当局に共有される。端末は北朝鮮のイントラネット「光明網」への接続のみ許され、外部インターネットは完全に遮断。画面操作の記録は自動保存され、中央管理室でリアルタイム監視が行われる。政治的に問題のある行為が確認されれば即座に上部へ報告され、処罰の対象となるという。

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こうした状況から住民の間では「文明生活を体験させる施設ではなく、誰が何をしているか逐一把握する監視所」という評価が広がる。一部利用者は「映画やゲームはできるが、誤った言動ひとつで身の破滅につながる」と語り、緊張感を抱えたまま過ごしているとされる。

一方、近年注目を集めたのは、この娯楽館で海外製のFPSゲームが堂々と稼働している点だ。中国人旅行者がSNSに投稿した映像には、『カウンターストライク2』『コール オブ デューティ:ブラックオプス3』『レインボーシックス』など、欧米企業が開発した人気ゲームを楽しむ北朝鮮の若者の姿が映っていた。ゲームは英語・文化語・中国語の多言語版が混在しており、正規ルートなのか違法コピーなのか、詳細は不明だ。

北朝鮮は海外文化の流入を厳しく取り締まる一方、国外のゲームを模倣したプロパガンダ用ソフトを自国産と宣伝してきた過去がある。このため、海外ゲームの無断コピーを「国産化」して使用している可能性も指摘される。専門家の間では、「若者の好戦性を高めるための利用」「軍事志向の精神教育の一環」といった分析も出ている。

施設内ではキオスク端末で空席を確認し、専用カードでログインする仕組みが導入され、飲料や菓子、プリントサービスなども提供。料金は1時間5000北朝鮮ウォン(約24円)と比較的手頃で、収益は当局や社会主義愛国青年同盟の資金源となる。利用者の中心は大学生や高級中学生で、新作ゲームが追加されると口コミで客足が増えるという。

当局は今後、元山、新義州、咸興など地方都市にも同様の施設を拡大する方針を示している。表向きの名目は「文明的余暇の普及」だが、実際には監視網の拡張と若年層コントロールの強化が目的との見方が強い。

娯楽と統制が混在する北朝鮮版ネットカフェ。その背後には、若者を惹きつけながら国家の統制力を強化する、きわめて計算された支配モデルが見えてくる。