1年間に韓国に亡命する脱北者の数は、2000年代に急増して1千~2千人規模となり、ピークの 2009年には年間2914人に達した。しかし、その後は北朝鮮と中国の国境警戒強化などにより徐々に減少。2024年には236人で、今年も昨年比で減少する見通しとなっている。
しかし、これは冒頭で述べた通り「韓国に亡命」した人々の数であり、北朝鮮から脱出(秘密裏に出国)した人全体の数ははるかに多い。その中には短期で帰国する密輸や出稼ぎ目的の人々もいるが、大部分は人身売買などで中国人男性と結婚させられた女性たちであると見られ、その数は万人単位とも10万人以上とも言われる。
そんな女性らも、以前ならば中国人の家から逃げ出し、韓国行きを試みる例が多かった。2014年に中国から逃げたある女性は「下着姿の半裸で夜逃げするしかなかった。必死の思いで韓国に逃げてきた」と語っている。
しかし現在は、顔認識ソフトを導入するなど中国当局の監視が強まった結果、同国内での移動もままならず、現地にとどまるしかなくなっている女性が大多数のようだ。
(参考記事:中国で「アダルトビデオチャット」を強いられる脱北女性たち)
そうした境遇に置かれたある女性の悲劇が伝えられた。
デイリーNKの両江道の情報筋によると、中国吉林省の人里離れた農村に住んでいた脱北女性Aさんが、中国人男性と事実婚の関係で同居していたものの、長年にわたり酷い扱いを受け、ついに先月末に自ら命を絶ったという。この悲報は国境地域の恵山市の住民たちにも伝わり、大きな衝撃を与えた。
Aさんは2014年、人身売買によって自分より10歳以上年下の中国人男性に「売られ」、10年以上にわたり事実婚関係で暮らし、子どもももうけていた。しかしその間、中国人の夫とその家族から暴力と侮辱を繰り返し受けていたという。
Aさんは一日中畑で働いたあとも家事を強いられ、少しでも疲れを見せると暴力を加えられ、頭を打ちつけられたり肋骨を折るほどの重傷を負ったりしたこともあったと伝えられる。
夫と家族による暴言や暴力は日を追うごとに激しくなり、そのたびにAさんは同じ村に住むほかの脱北女性たちに「私はこんなことをするために脱北したのではない」と涙ながらに訴えていたという。
Aさんはついには自ら派出所を訪れて助けを求めたが、中国当局は「身分のない人の事件は扱えない」と言って門前払いした。そして先月末、Aさんはついに自らの命を絶った。
Aさんの遺体を最初に発見したのは、同じ村に住む別の脱北女性だった。彼女は公安に通報しようとしたが、周囲の人々に「余計なことをすれば、あなたも調査を受けることになる」と脅され、恐怖のあまり何もできなかったという。
