北朝鮮の国境地域で、国家保衛部が過去に中国製携帯電話を使用した住民を対象に、深夜の不意打ち家宅捜索を行っている。かつての使用歴だけで「摘発対象」とされる異常事態に、住民社会には極度の恐怖が広がっている。

デイリーNK内部情報筋によると、咸鏡北道会寧市や穏城郡、茂山郡などで最近、保衛員が真夜中に住民宅へ踏み込むケースが相次いでいる。中には深夜0時を過ぎてから4人の保衛員が押し入り、寝ていた家族を叩き起こして捜索を行った例もあったという。対象は、かつて中国製携帯電話を使って密貿易や送金仲介をしていた経験のある住民だ。

北朝鮮の携帯通信は国内専用ネットワークのみが使用可能で、インターネットには絶対に接続できない。さらに、通話・メッセージ・アプリの使用はすべて当局によって規制・監視されている。

中朝国境地帯では、海外との通話が可能な中国製携帯が密かに持ち込まれ、中朝ビジネスや脱北者との連絡に用いられてきた。

会寧市のある住民A氏は、過去に中国と違法通信を行った罪で拘禁された経歴がある。しかし、2023年以降は携帯電話を使っていないにもかかわらず、10月末に家宅捜索を受けた。保衛員たちは理由も告げず家を荒らした後、「中国の携帯を隠していないか確認に来た」と言い残して去った。突然の出来事に家族は抗議すらできなかったという。

こうした例が相次ぎ、「過去に使っただけでも捜索される」という噂が瞬く間に広がった。咸鏡北道だけでなく、平安北道や両江道でも同様の捜索が報告されており、「かつての使用者リスト」が当局の手に渡っているとみられている。

平安北道の消息筋は「外部情報の流入が体制の安定を脅かすと判断し、過去の使用者まで対象を広げた」と語る。これは単なる取り締まりではなく、住民社会に恐怖を植えつけ、統制を強める狙いがあるとの見方も強い。

実際に違法通信の証拠がなくても、名簿に名前があるだけで夜中に家を荒らされる。住民の間では「いつ保衛部が来るか分からない」との不安が募り、夜眠れない人も増えている。両江道恵山市では、10月末までに3人が中国製携帯を所持していたとして逮捕されたという。

北朝鮮では、夜間に家へ押し入られるのは通常「政治犯やその家族」を連行する時だ。保衛員のノックはその象徴でもあり、「深夜に叩かれたら終わりだ」という恐怖が根強い。今では多くの住民が携帯を家の外に隠したり、破壊して証拠を消そうとしている。

かつて中国とつながる「命綱」だった携帯電話が、いまや「罪の証拠」へと変わった。北朝鮮の国境地帯では、闇夜に響くドアのノック音が、次は誰の家を襲うのか――人々は息をひそめている。