北朝鮮の伝統的なスローガンである「自力更生」。外国に頼らず、すべて自分たちの力でやりくりしていくという意味が込められているが、あらゆる分野でリソースが乏しい北朝鮮では、非現実的で虚しいスローガンといえる。そればかりか、「自力更生」の名の下に社会的動員が相次ぎ、住民の生活困窮を招いているとデイリーNKの内部情報筋が伝えている。
咸鏡北道の茂山(ムサン)郡では、秋の収穫期を終えた今、住民たちは冬の準備に追われている。しかし商売をしたくても、国家が動員ばかりかけるため時間がない。収入が途絶え、生活が立ち行かなくなっているという。北部国境地帯の市場では、冬用の燃料を求めて人々が集まるものの、金がなく買えない者が多く、取引はほとんど成立しない。「みんな山に入って薪を集めている」と住民は語り、生活の逼迫ぶりを物語る。
一方、地方の中心都市・清津(チョンジン)でも、中国製品が市場にあふれているが、売れずに在庫が積み上がっている。外商で仕入れた商人は代金を回収できず、借金だけが膨らむという。「買う人はいないのに売る人ばかり多い」との声もあり、例年なら商売が動く秋口にも市場は沈滞ムードに包まれている。
北朝鮮当局は各種の社会的動員や集団労働を繰り返しているが、とりわけ今年の10月は北朝鮮の支配政党である朝鮮労働党は創立80周年をむかえたこともあり、平壌だけでなく全国各地で大々的な祝賀行事が開かれた。
こうした国家行事に動員されることにより、商売の時間を奪われた人々は収入を得られないまま生活が悪化している。伐採、冬の防寒物資集め、国家支援事業などの動員が重なり、日々市場に立つ余裕もないという。
党幹部らは「今の苦労は新しい跳躍の準備段階」「社会主義の信念を守るために動員は避けられない」と説くが、ある住民は「腹を空かせた者に理想を語っても響かない」と吐き捨てた。市場経済の息の根を止める「自力更生」政策――その掛け声の陰で、人々の暮らしはますます追い詰められている。
