北朝鮮の住民たちが長年、外部情報の唯一の窓口としてきた自由アジア放送(RFA)が、アメリカ政府の政策変更により今年7月初旬に放送を停止した。これを受けてデイリーNKは、北朝鮮国内で密かに放送を聴いていた住民に接触し、咸鏡北道・会寧(40代)と平安北道・新義州(50代)の2人から貴重な証言を入手した。
二人は口を揃えて「外部とつながる窓口が閉ざされた」と深い喪失感を語った。会寧のA氏は2018年から、夜中や夜明けにラジオのスイッチを入れ、南のニュースや世界情勢を聴いていたという。「放送を聴くと、この国の暮らしがどれほど厳しいか、別の社会があることを知った。南で生きたいと思った」と率直に話した。
ラジオは海外情報だけでなく、一般市民が決して知ることが出来ない金正恩体制に秘密内部情報を伝える貴重な窓口でもあった。
筆者は2011年に金正恩氏の実母・高容姫(コ・ヨンヒ)女史の正体をスクープし、RFAからもインタビューを受けたことがある。北朝鮮では一切明かされていない金正恩氏の出自は、RFAを通じて北朝鮮国内に伝わった。後に脱北者から「金正恩の実母は日本生まれで在日朝鮮人の高容姫」という話しが、RFAを通じて密かに拡散され知れわたったと聞いたとき、ジャーナリスト冥利に尽きる思いだった。
新義州のB氏も2003年からRFAを聴取していた。「世界の動きを知る貴重な情報源だった。放送のおかげで希望を持てた」と語る。二人に共通するのは「世界を見る目が変わった」という実感だ。ラジオを通じて韓国や世界の情報に触れることで、体制宣伝に揺るぎないと思っていた世界観が崩れ、自らの社会を相対化する視点が芽生えたという。
RFAの放送中断は、彼らにとって“希望の電波”を失う出来事だった。A氏は「信じられなかった」と話し、B氏は「生きる気力がなくなるほど失望した」と打ち明ける。現在は日本や中国の放送を試みているが、情報の質に満足できず、「放送が必ず再開してほしい」と願っている。
「国民統一放送」の報告書によると、北朝鮮では今も携帯用ラジオの需要が高く、住民の19%が聴取経験を持つという。厳しい統制の下でも、人々は外の世界の声を求めて耳を澄ませ続けている。
