北朝鮮の金正恩総書記が、朝鮮労働党創建80周年を前に「党の権威を損なう行為を摘発・排除せよ」と指示し、内部統制を一段と強化している。
すでに絶対的な一人支配体制を築いている金正恩が、改めて「権威」を口にしたのは異例だ。韓国のシンクタンク「サンド研究所」傘下のサンドタイムズは、専門家の話を交えながら、実娘とされるキム・ジュエを念頭に置いた4代世襲の布石として、内部の“異分子”を事前に排除しようとする意図があると分析している。
北朝鮮国営の朝鮮中央通信によると、金正恩は9日、平壌の「党創建史跡館」を訪れ、「党の指導的権威を損なうあらゆる要素と行為を、適時に摘発・排除しなければならない」と強調。「党内に厳格な規律と健全な風紀を確立せよ」とも述べた。粛清と人事改編を重ねて体制を固めた後にもこうした指示を下すのは異例で、内部の不満や派閥的動きを早期に封じる狙いが透ける。
実際、北朝鮮では6月の『労働新聞』社説でも「党中央の唯一的指導」「不動の権威」などの表現が繰り返され、指導者への批判を完全に封じる空気が強まっている。韓国の北朝鮮専門家は「権力が安定すればするほど言葉は簡潔になるものだが、最近の北朝鮮はむしろ複雑なスローガンを多用している」と指摘。「これは後継問題をめぐる緊張と準備のサインだ」と分析する。
一方、金正恩氏は演説で建国の父である祖父・金日成主席に触れたのは一度だけで、金正日国防委員長には一言も言及しなかった。祖父と父の権威を意図的に薄めながら、金正恩自身の“唯一独裁王朝”を築こうとしているとみられる。
さらに、金正恩は同日、「第2の建国時代」を宣言し、「10年以内にすべての分野と地域を新たに変革しなければならない」と訴えた。この“第2建国”というスローガンは、キム・ジュエへの権力継承を正当化する政治的・思想的な布石とみられる。
韓国の国家情報院は9月、国会報告で「キム・ジュエが父の中国訪問に同行したのは、後継者としての『革命叙事』を完成させるため」と説明。『労働新聞』も「白頭の血統」「革命の継承」を繰り返し強調し、4代世襲を既成事実化しつつある。
すでにキム・ジュエは軍や青年組織の行事に頻繁に姿を見せており、党幹部の間では「次代の領袖」としての位置づけが進んでいるとみられる。金正恩が“権威の毀損”という言葉を再び持ち出した背景には、権力世襲への抵抗を封じ、体制の動揺を未然に防ぐ狙いがあると考えられる。
金正恩が言う「第2の建国」、すなわち金正恩唯一独裁王朝体制は、単なる経済・社会改革のスローガンではなく、キム・ジュエへの継承体制を支える“新しい時代”の宣言なのかもしれない。
