北朝鮮当局は、深刻な労働力不足に悩む「困難で骨の折れる僻地」へ、大量の若者を送り込んでいる。名目上は「嘆願」による志願という形だが、実際には組織ごとに割り当て人数を決め、半ば強制的に希望者を募っているのが実情だ。それにもかかわらず、思うように人は集まっていないという。
咸鏡北道のデイリーNK内部情報筋によれば、同道にある炭鉱機械工場の青年同盟(社会主義愛国青年同盟)は、農村や炭鉱への「嘆願」を呼びかけたが、手を挙げた若者は一人もいなかったという。
(参考記事:未婚だからと「陸の孤島」に島流しになる北朝鮮の若い教師たち)
今月8日、工場内の朝鮮労働党委員会は青年同盟に対して「嘆願させよ」と圧力をかけたが、それでも19日までに希望者は現れなかった。
業を煮やした党委員会は青年同盟の幹部を呼び出し、次のように厳しく叱責したという。
「女性同盟(朝鮮社会主義女性同盟)の同志たちでさえ、家庭を置いて困難で骨の折れる部門を支援しているのに、若者たちは損得勘定ばかりしていてどうするのか」
女性同盟と比べて、青年同盟員の支援姿勢が著しく消極的であることへの非難だった。
情報筋によれば、「女性同盟は、支援に関して党から最も信頼されている組織と評価される一方、青年同盟は“クズ組織”とまで酷評されている」という。それほど、青年同盟のメンバーの非協力ぶりが目立つということだ。
しかし、女性同盟のメンバーが積極的に「嘆願」する背景には、生活苦があると情報筋は指摘する。
「生活があまりにも苦しくて、もう耐えられないから(嘆願を)選ぶのであって、家庭が安定している女性がわざわざ嘆願する理由などない」
つまり、女性たちが僻地に向かうのは国家への忠誠心や義務感からではなく、なんとかして経済的困窮から抜け出そうとする“出口”として、それが機能しているのだという。都会と違って土地がある分、食べ物の入手が相対的に楽なのだ。
(参考記事:農村への「強制移住」を逆利用し、出世のチャンスを掴む北朝鮮の若者)別の咸鏡北道の情報筋も次のように語る。
「若者たちは、高級中学校を卒業すると軍か大学に進む。あるいは商売などで金を稼ぐ方法はいくらでもある。だから、わざわざ党の命令に従って僻地に行こうとはしない」
そもそも若者たちには、国や党に対する忠誠心が乏しく、生活の足しにもならない活動に進んで参加しようという雰囲気は皆無だという。
さらにこの情報筋はこうも語った。
「都市部に住む女性同盟員の場合、家庭の事情が苦しければ『僻地に行ってでも生き延びなければ』という心理が働くだろうが、青年同盟員の置かれた環境はまったく異なる。そうした事情を無視して、若者たちに無条件で支援に行けと圧力をかけるのは、正しいやり方ではない」
一度「嘆願」して僻地に行けば、子や孫の代までその地に縛られ、貧困から抜け出せなくなる――。それが人々の根深い不安としてある。
