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皆が嫌だと逃げて回る仕事を、文字通り「買って」出る人が現れた。

北朝鮮は、深刻な少子化、労働人口の減少に悩まされているが、中でも農村、炭鉱などきつい、汚い、危険の3Kの職場における働き手不足はかなり深刻なようだ。

当局は、若者たちが「頼むから行かせてほしい」と嘆願したという形で、半強制的に彼らを徴発し、3Kの職場に送り込んでいる。彼らはあの手この手を使って「嘆願」から逃れようとし、一度送り込まれても、なんとかして抜け出そうとする。一生貧しいままで暮らすことを強いられるからだ。

中には、それをきっかけに脱北した人すらいる。

(参考記事:「嘆願事業」に反発し脱出を決断…脱北者ら、都内で会見

ところが、「嘆願させてほしい」と希望者が殺到し、ワイロが飛びかうあべこべの事態が起きている。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

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両江道(リャンガンド)の情報筋によると、金亨稷(キムヒョンジク)郡では今月12日、嘆願事業で農村に向かう14人の若者の歓送会が開かれた。14人の内訳は、昨年兵役を終えたばかりの除隊軍人で、社会主義愛国青年同盟(青年同盟)所属の男性11人と、その妻で朝鮮社会主義女性同盟(女盟)所属の女性3人だ。

朝鮮労働党両江道委員会は、それ以外にも恵山(ヘサン)市、金正淑(キムジョンスク)郡など道内の各市・郡で、農村に向かう若者の歓送会を、4月まで段階的に開催する予定だ。

各市・郡の青年同盟、女性同盟、朝鮮職業総同盟(職盟)は、昨年12月から嘆願を希望する者の募集を始めた。女盟、職盟は希望者が完全にゼロだった一方で、青年同盟には希望者が殺到して、競争になるほどだった。

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中には、より条件のよい村に送ってほしいと、幹部に酒やタバコなどのワイロを掴ませる者すらいた。

皆が嫌がるはずの地域に行こうとする若者の思惑はいかなるものなのか。別の情報筋が解説した。

対象の地域としては農村、炭鉱、林業の村などがあるが、希望者は農村ばかりで、青年同盟では農村に行く人だけを募集した。炭鉱や林業の希望者は全くいなかった。

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農村に希望者が偏るのには訳がある。

「彼らが農村への嘆願を希望する目的は、突撃隊への徴発を逃れ、楽に幹部のポストに就くためだ」(情報筋)

兵役を終えた人は、朝鮮労働党に入るための推薦状を書いてもらえる。朝鮮労働党の威光は、以前とは比べ物にならないほど弱まったとは言え、今でも社会的な地位を築くには、入党は欠かせない。

(参考記事:朝鮮労働党でサボタージュ横行…金正恩失政で拍車

だが、兵役を終えた後、さらに3年もの間、突撃隊で働かなければならない。金正恩総書記がぶち上げた国家的なビッグプロジェクトの建設現場でタダ働きさせられるというものだが、労働条件が劣悪で、事故も多発している。

(参考記事:少なくとも100人死亡…金正恩命令の「速度戦」で死屍累々

一方で農村は、都市部に比べてインフラ整備は遅れているものの、突撃隊よりはまだマシだ。自宅の裏庭にトゥエギバッ(小規模な農地)を作り、作物を作れば少なくとも食べるものに困ることはない。また、余剰分を販売すれば現金収入になる。さらに、結婚して家庭を築くことも可能だ。

3Kの職場、地域に行けば「嘆願証書」がもらえるが、これを持っていると地元の労働党委員会に予備幹部として登録してもらえる。党の末端組織のトップである細胞書記などに任命されれば、社会的な出世の道が開けるのだ。

(参考記事:北朝鮮有数の鉱山が操業中断、路頭に迷う子供たち

炭鉱や林業の村への希望者はいない理由をいずれの情報筋も語っていないが、答えは単純、リスキーだからだ。

刑罰としての炭鉱送りが存在するほど、北朝鮮の炭鉱の労働環境は劣悪だ。度重なる労災事故に巻き込まれるリスクも高い。林業も同じだろう。また、装備の不足で、石炭の粉塵を吸い込み、若くして体を壊す人も多い。

かつて、炭鉱が外貨を稼ぎ出す花形産業だった時代もあるが、国際社会の経済制裁でそれも今は昔。

「何の利害打算もなしに、つらく厳しいところに行く人などいない。新聞やテレビは、党の呼びかけに応じて純粋な気持ちで向かうと宣伝しているが、現実は全く逆だ」(情報筋)