
デイリーNKは、北朝鮮の黄海南道平山郡にあるウラン工場の現状について、様々な種類の衛星資料を用いて追加分析を行った。高解像度衛星写真、熱赤外線画像、夜間光度映像などを用い、施設の最近の状況や稼働動向を多角的に検討した。
熱赤外線画像は、地表から発せられる熱を衛星が感知し、その強度を数値化した資料だ。施設が稼働する際に発生する熱を感知することで、工場の稼働状況を探知または分析する研究に広く使われている。また、夜間光度映像は、毎日午前1時30分に衛星が全世界を撮影し、地表の光を検知して夜間活動や経済動向の分析に用いられている。
複数の衛星による分析の結果、北朝鮮が核兵器の生産能力を強化しようとしている中で、最近、平山のウラン工場での生産活動が増加しており、沈殿池からの排水も昨年より増えていると把握された。
平山のウラン関連施設は、大きく3つのエリアに分けられる。ウラン鉱石を採掘する鉱山、鉱石を精錬・製錬するウラン精錬工場、そして廃水を溜めておく沈殿池だ。衛星写真でウラン工場の右側を見ると、約300メートル離れた礼城江の対岸の丘に高射砲陣地が設置されているのが確認できる。
陣地には楕円形に9門の高射砲が配備されている。空爆に備えウラン工場の厳重な防空を担う拠点だ。このことから、施設が北朝鮮にとって戦略的に極めて重要であることがわかる。ただし、高射砲陣地ひとつで空爆に対応できるかは疑わしい。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面北朝鮮において、ウラン精鉱を生産しているのは平山工場のみだ。ここが空爆などで生産機能を喪失すれば、北朝鮮の核戦力増強計画に大きな支障が出るだろう。過去には平安北道博川郡にもウラン精鉱の生産施設があったが、現在は閉鎖されたとされる。
一部の見解によれば、閉鎖・放置されていた博川ウラン工場は、現在、補修工事などの現代化・再建プロセスが進行中であり、作業が完了すれば再稼働も可能との見通しがある。
熱赤外線画像と夜間光度映像を活用し、平山工場の施設稼働状況と夜間活動について検討した。最近、生産関連の活動が進められており、時には深夜作業も行われていると推定される。

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なお、熱赤外線画像分析には、米国の地球観測衛星「ランドサット9号」が6月5日午前10時30分頃に撮影した資料を使用した。分析のため、熱赤外線資料を所定の手続きに従い数式を用いて地表の摂氏温度に変換し、温度分布を1〜2度刻みで色分けして図示した。カラーマップを基に、ウラン工場の最近の稼働状況と運営実態を確認した。熱赤外線資料の分析によれば、平山の6月5日の平均26度、最低19度、最高33度に達していた。
熱赤外線画像では、熱の高い場所が赤、温度の低い場所が青で表示される。衛星画像では火力発電所などのいくつかの施設から高熱(赤褐色〜赤色)が放出され、生産活動が行われていることが確認された。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面火力発電所が電力を生産・供給し、周辺施設も活発に稼働していると推定される。廃棄物処理場や焼却炉、ウラン精鉱の生産建屋などから高熱が放出されており、「イエローケーキ」の生産が進行中であると分析される。選鉱・破砕建屋は低温の紫色で表示され、低出力で稼働していると評価されている。
夜間光度映像分析では、米国海洋大気庁(NOAA)の気象観測衛星「JPSS」が午前1時30分に撮影した光度映像(VIIRS)を用いてウラン工場の夜間の光の状況を確認した。上記の衛星写真の下部に見られるように、ウラン工場一帯では最近、かすかではあるが夜間の光が頻繁に確認されている。
真夜中に平山工場で何らかの活動が行われており、その様子が衛星写真に光として確認された。核物質の生産関連の活動が夜間にも継続して行われていると推定される。通常、この場所は夜になると一切の光がない真っ暗な場所だが、不可解な夜間の光が相次いで確認されており、核物質生産の夜間稼働が継続している可能性がある。
2025年5月末に撮影された高解像度衛星写真(ワールドビュー3)を用いて、最近の沈殿池からの廃水排出状況を確認した。2024年10月末の衛星写真と比較すると、廃液の排出量が増えていることが判明した。
幅2メートルの排水路に沿って沈殿池から排出された廃水が流れており、黒く明瞭に識別される。まもなく朝鮮半島は梅雨入りする。多雨となる梅雨時に合わせて、廃水の排出量がさらに増加することが懸念される。
「デイリーNK」(2022年1月21日)や「月刊朝鮮」(2018年7月23日)などの報道によれば、平山地域では不穏な怪情報が飛び交っているという。「平山ウラン鉱山の兵士や労働者、近隣住民が短命で、奇形児の出生や原因不明の『幽霊病』による死」が起きているとされ、「社会全体に不穏な空気が漂い、恐怖と不満に満ちており、忠誠心や士気が著しく低下している」とされる。
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これらの怪情報の実態を把握するには、平山出身の脱北者や現地で勤務していた軍人、労働者、地域事情に詳しい人々から幅広く証言や資料を収集する必要がある。さらに可能であれば、現地の内部協力者を通じて現在の状況を諜報として収集することが、実態の把握に大きく寄与するものと見られる。
また、国連や国内外の環境・人権団体とも連携し、平山の汚染や「幽霊病」といった怪情報の実態把握のため、包括的な共同研究調査を推進することを提案したい。