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北朝鮮には、最大で500か所の公設市場が存在するとされている。首都・平壌郊外の平城(ピョンソン)市場、北東部の清津(チョンジン)の水南(スナム)市場の巨大市場を中心として、各市・郡・区域に1か所以上設置されている計算だ。

このような公設市場以外にも、「イナゴ市場」と呼ばれる非公式の市場が全国各地に無数に存在する。取り締まりを避けて短時間で開かれ、取り締まり要員が現れると即座になくなるのが特徴だ。当局は最近、このような市場で商売するイナゴ商人からも、市場管理税、いわゆるショバ代を徴収するようになり、住民の間で反発が広がっている。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋は、イナゴ市場での市場管理税徴収について言及し、「多くの市民が、『イナゴ市場は非公式なのに税金を取るのはおかしい』と反発している」と語った。

このような非公式市場ができた背景には、コロナ禍以降の深刻な経済停滞と、市場経済化に逆行する経済政策の影響がある。

2010年代後半、公式の市場は北朝鮮歴史上最も活況を呈し、日用品から衣料品、家電までほぼすべての品物が手に入る場として、庶民の生活に不可欠な存在となっていた。また、最新トレンドの発信地となっている市場もあった。

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しかし、経済の主導権を国の手に取り戻す方針を掲げた金正恩総書記は、コロナ禍を機に移動統制を強化し、市場での穀物、国営工場の製品、家電などの取り扱いを禁止するなど、統制を強めていった。市場で商売を行う人々はそのまま消費者でもあるため、こうした締め付けは収入の激減と消費の冷え込みを招いた。

現在、公式の市場で商売をするには、幅80センチ・長さ150センチの売台(ワゴン)を借りる必要があり、そのレンタル費用は30万北朝鮮ウォン(約1680円)に上る。さらに、1日ごとに2万北朝鮮ウォン(約112円)の市場管理税を支払わなければならない。

取り締まりの強化と需要の冷え込みの影響で、1日の売上が1000北朝鮮ウォン(約5.6円)に満たない商人が増えており、それでも他に現金収入を確保する手段がないため、彼らは細々と商売を続けている。また、45歳未満の者は市場での商売を許されないという年齢制限も存在し、若年層の参入を阻んでいる。

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こうした制度的・経済的制約から、多くの零細商人は公式市場を避け、市場の周辺道路や路地、鉄道の踏切付近などに集まり、パンや氷菓などを露店で販売している。これが「イナゴ市場」と呼ばれる非公式市場である。

イナゴ市場は現在も取り締まりの対象とされており、安全員(警察官)や糾察隊員(取り締まり要員)は、しばしば暴力的に商品を没収するなど、強硬な手法で商人に接している。この対応に対する不満やトラブルも多発している。

(参考記事:報復殺人や騒乱事件を誘発…「不良警官」の暴走に悩む北朝鮮

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そうした状況の中、非公式市場にまで市場管理税を課す動きが始まっている。

平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋によると、当局は最近、イナゴ市場の商人からも市場管理税を徴収するようになった。かつては取り締まりに遭えば商品をすべて没収されていたが、現在はその代わりとして2万北朝鮮ウォンを支払わせる方式に変化しているという。

情報筋はその背景として、安全員自身の生活苦があるとした。

この時期、北朝鮮では全国的に「田植え戦闘」と呼ばれる農業動員が行われており、公式市場の営業時間は16時から19時までに短縮され、利便性が大きく損なわれている。これと入れ替わるようにして営業が始まるのがイナゴ市場であり、勤務先や農場での動員作業を終えた人々が夕方以降に出店する。

情報筋は、「イナゴ市場を狙った安全員たちの取り締まりも激しい」とし、「安全員たちもイナゴ市場で住民を多く取り締まって市場管理税を徴収しなければ生計が成り立たないため、取り締まりを避けようとする住民たちとのイタチごっこが繰り返されている」と述べた。

商人や市民からは批判の声が高まっているが、生活が懸かっているのは商人だけでなく、安全員や地方政府も同様である。北朝鮮では公式な税制度が存在しないため、市場管理費は地方政府にとって極めて重要な「実質的税収」となっている。その予算に占める比率は明らかではないが、他に有力な収入源が乏しいことは確かである。

そのため当局は、税金を払わずに商売ができるイナゴ市場を取り締まり、商人を公式市場へ誘導しようとしてきた。しかし、そもそも市場管理費を支払える余裕のない零細商人こそがイナゴ市場を利用しているため、こうした政策は現実との乖離を指摘されている。

情報筋は、「当局が『イナゴ市場』を公式に認めていないにもかかわらず市場税を取るのは、いくら取り締まっても効果がないので、いっそ非公式市場でも税だけは取ろうという意図だ」と説明した。

(参考記事:「国民の血と汗を搾り取るのか」金正恩演説に国民の不満爆発

また、税収が不足すれば、市民から様々な名目で金品を徴収する。いわゆる「税金外の負担」だ。これに対する庶民の不満は非常に大きい。

結局のところ、金正恩政権が目指す「市場の機能縮小と国営流通網の再建」という、1980年代以前の計画経済への回帰は、現実の経済状況に阻まれ、実現困難なものになりつつある。