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観光業は、もはや北朝鮮の稼ぎ頭ではないのかもしれない。

北朝鮮は先月、英国、フランス、ドイツなど西欧諸国からの観光客の受け入れを再開した。新型コロナウイルスのパンデミックで鎖国状態に入って以降、5年ぶりのことだが、わずか3週間で受け入れを中止した。

その理由について様々な見方が示されているが、ロシアへの派兵が関係しているのではないかとの分析もある。

ボストン・カレッジ政治学科のハン・ヴー客員研究員は、オーストラリアのローウィー研究所への寄稿で、北朝鮮が外国人観光客の本格的受け入れを再開していないことについて、観光業の価値が相対的に下がったことが影響していると指摘した。

北朝鮮は2019年に、外国人観光客から稼ぎ出したのは約1億7500万ドル(当時のレートで約189億円)だったが、ロシア派兵では約55億ドル(約8280億円)を稼ぎ出したと推定されている。後者の方が圧倒的に儲かり、国民に悪影響を及ぼす外国人が入国しないため、体制の安定にも有利と考えたようだ。

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北朝鮮に入国する外国人観光客の数は2018年の約10万人から、2019年には約35万人に急増し、キャパオーバーで一時受け入れを中断するほど盛況を見せていた。また、リアリティ番組の「アメージング・レース」ベトナム版の撮影を受け入れるなど、広報にも力を入れていた。

ヴー氏は、北朝鮮が主力産業を観光業から派兵に舵を切ったとしつつも、北朝鮮社会、政治の安定に必ずしも繋がらないと指摘した。

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例えば、派兵される本人やその家族に、行き先がウクライナ軍と対峙する最前線であることが知らされず、軍に入った息子が戦場に送られたのではないかと、あちこちを尋ね歩く親や、兵役忌避のためにありとあらゆる手段を動員する親など、一部で混乱が生じた。

(参考記事:「息子が助かるなら、自分は処刑されてもいい」ロシアに送られた兵士を思う北朝鮮の親たち

また、自国を守るために存在するはずの朝鮮人民軍(北朝鮮軍)を、カネ目当てで海外に派兵して、その多くを死なせたことについて、北朝鮮国民の中には金正恩総書記、朝鮮労働党に反感を持つ者もいる。

さらには、戦死者の遺体を丁重に葬らず、放置するなど、朝鮮の死生観では激しい抵抗感を覚える行為を行っている。

(参考記事:「兵士がカネのために死んでいる」北朝鮮国民、ロシア派兵で国家に怒り

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ヴー氏は「北朝鮮国内を戦場から隔離する必要がある」として、外国人観光客が戦死者や新たな派兵に関する情報を持ち込むことを北朝鮮は警戒しているのではないかと見ている。

北朝鮮の口コミネットワークの威力を考えると、外国人観光客の一言が、全国にあっという間に広がる可能性も考えられる。

北朝鮮を訪問したユーチューバーのマイク・オケネディ氏は、BBCとのインタビューで、羅先(ラソン)の朝露友好会館を訪れた際に、芳名録に「世界平和を願います」と書き記したところ、案内員(ガイド)から「不適切だ」との指摘を受けたと語った。場所が場所だけに、敏感に反応したということだろう。

ヴー氏は、「2022年にリゾートの建設作業を再開したとき、北朝鮮はウクライナ戦争の勃発と、ロシアが武器と軍隊を必要とすることを予見していなかった」と指摘した。

(参考記事:【写真】「北朝鮮の不良弾薬が暴発し吹き飛ぶロシア兵」衝撃の瞬間

しかし、金正恩氏は今月、ロシア国境に接する温泉リゾートの温堡(オンボ)勤労者休養所の工事現場を現地指導し、塩盆津(ヨムブンジン)海洋旅館について新たな指示を出した。また、巨大リゾート地・元山葛麻(ウォンサン・カルマ)海岸観光地区に関する報道も続いており、観光業を諦めたというわけではないようだ。