7月末に北朝鮮を襲った水害で、中国との国境に接した区域を中心に甚大な被害が出ている。しかし、その全容は明らかになっていない。
韓国の朝鮮日報系のTV朝鮮は、慈江道(チャガンド)で、水が引くにつれて次々に遺体が発見され、死者が3500人から4000人に達したと、韓国政府関係者の話を引用して報じた。これは、北朝鮮公式発表の全国の死者1500人を遥かに上回る。
この水害は、北朝鮮という抑圧体制を支える監視網にも大きな打撃を与えている。現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
(参考記事:北朝鮮の15歳少女「見せしめ強制体験」の生々しい場面)
北朝鮮のすべての道・市・郡の境界線には10号哨所と呼ばれる検問所がある。国家保衛省(秘密警察)管轄で、国民の他地域への移動を制限するものだ。ここを通過するには、旅行証と呼ばれる国内用のパスポートの提示が求められ、首都・平壌、軍事境界線や国境に接した地域、軍需工場の密集地帯である慈江道に入るにはさらに特別な許可が必要となる。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面ところが、この10号哨所や社会安全省(警察庁)の哨所が深刻な被害を受けたことがわかり、これらの再建を最優先課題として迅速に進めよという内容の「1号方針(金正恩総書記の指示)」が下された。
方針には、哨所の単純な復旧を超え、機能強化と保安体系の再整備の機会とせよとのくだりも含まれている。
あらゆる権限がカネを生み出すのが北朝鮮だ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面コロナ前まで、哨所の周辺にはブローカーがたむろし、彼らにいくばくかの手間賃を手渡せば問題なく通過できた。また、哨所に定期的にワイロを渡しているポリ車、ソビ車(民間人が運営するトラック、乗用車)を利用すれば、ほぼフリーパスで通過できた。
国内の移動の自由を制限することで、国民を徹底的に締め付けるためのシステムが、カネの力の前に脆くも崩れ去っていたのだ。金正恩氏は、今回の被害をきっかけに、元の移動統制システムを取り戻そうとしているのだろう。
(参考記事:北朝鮮の「検問所」が「料金所」に変身した裏事情)「国は今年に入ってから国家安全保障にいっそう敏感に反応している。そんな中で、哨所に被害が発生した。これを機に、哨所の原状回復を超え、より強力な監視網の構築を図っている」(情報筋)