「携帯電話禁止は通信の自由に対する過度な制限だ」
小中高校の話ではない。脱北して韓国に到着したばかりの人々が教育を受けるハナ院を舞台にした問題だ。
韓国の独立的な人権擁護機関である国家人権委員会は2022年1月、ハナ院が教育を受けている人々に対して携帯電話の所持、使用を制限しているのは人権侵害に当たるとして、制限を緩和する勧告を出していたことが最近になってわかった。
米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は今年5月中旬、国家人権委員会侵害救済第2委員会の決定文を入手したと報じ、その内容を公開した。そこには、ハナ院に入っている脱北者の一般的な行動の自由権、通信の自由を過度に制限しないように、内部規程の改正を所管の統一省に勧告する内容が含まれていた。
(参考記事:韓国警察の脱北女性への性暴力が横行、組織的な隠蔽も)これは、2022年7月13日に江原道(カンウォンド)華川(ファチョン)のハナ院を退所した293期脱北者のキム・テグォンさん(仮名)が、国家人権委員会に出した陳情(人権救済申し立て)を受けてのものだ。キムさんは、ハナ院側が自身に携帯電話の使用を禁止して、自由権、通信の自由を侵害したと訴えていた。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面これに対して統一省は、内部の施設運営状況などが外部に流出することで脱北者の身に危険が及ぶとして、カメラ付きの携帯電話を提出させ、退所後に返却していると反論した。これは「定住支援施設保護対象者生活管理に関する規定」第5条に基づく措置だ。
また、統一省は、施設内には公衆電話などが設置されていて、これを不便なく使用できるため、接見交通権、通信の自由の侵害には当たらないとも反論した。
しかし、国家人権委員会は、キムさんの陳情を受け入れる決定を下した。携帯電話の使用制限は、韓国の憲法が保証する個人の幸福追求権を制限するおそれがあり、携帯電話はコミュニケーションにおいて欠かせないツールであること、SNSは社会的関係の維持、発展の手段となっていることなどを考慮しなければならないと指摘した。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面そして、外国人保護所(入管収容施設)の被収容者に対する携帯電話の使用制限の緩和を勧告した事例、韓国軍の将兵が勤務終了後に携帯電話を使用している事例などを挙げ、統一省の主張は「妥当性を欠く」とした。
また、セキュリティについては別途のシステムの導入や予防教育、罰則などで対応すべきとした。
(参考記事:韓国政府からニセモノ扱い…裁判を戦い抜いたある脱北者)国家人権委員会の勧告には強制性はないが、政府機関の9割以上が受け入れて改善措置を取っている。統一省とハナ院は、その数少ない例外だ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面今年、ハナ院を対処したクォン・ミギョンさん(仮名)は、ハナ院入所前に、携帯電話に記録された連絡先を別紙に書き取ることだけ認められた、家族写真を見ることができず、精神的に辛かったと、RFAに語った。
統一省はRFAの取材に対し、国家人権委員会の勧告に基づき、2023年7月から日課後の一定時間、本人名義の携帯電話に限り、使用を認めていると反論した。ただ、脱北者の所持している携帯電話は、中国で偽造の身分証明書を使って加入したものが多く、実質的に使用できない場合が多い。
「朝鮮半島人権と統一のための弁護士の会」のイ・ジェウォン会長は、「自由は、他人の権利を侵害したり、国家安全を害したり、社会秩序を乱すものでなければ、基本的に保障されるべき」として、統一省のやり方を批判した。
なお日本は、国連人権理事会から、独立した人権擁護機関の設立を求められているが、一向に話が進まない。また、ウィシュマさん死亡事件など度重なる事件、人権侵害事例で社会に衝撃を与えた入管収容施設だが、被収容者はテレホンカードと公衆電話を使っての通話以外は認められていない。そのため、家族との通話、難民申請、在留特別許可を得るための書類作成に必要な連絡などに困難を来している。