北朝鮮では昨年10月から、国営工場、企業所、機関で賃上げが行われている。平壌紡績工場では月給が2300北朝鮮ウォン(約41円)から、5万北朝鮮ウォン(約900円)へと21年ぶりに引き上げられた。
今年4月から対象地域が全国に広げられたが、物価高に賃金の伸びが追いつかない状態となっている。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
平安南道(ピョンアンナムド)殷山(ウンサン)の市場では、無煙炭1トンが先月初めには15万北朝鮮ウォン(約2700円)だったのが、今月中旬以降28万北朝鮮ウォン(約5040円)に上昇した。豚肉1キロも2万3000北朝鮮ウォン(約414円)だったのが、今では3万北朝鮮ウォン(約540円)となっている。
現地の情報筋によると、この地域でも5万北朝鮮ウォンへの大幅な賃上げが行われたが、「結局、変わったのは市場の物価だけ」という状況に陥っている。
当局は工場、企業所、機関の労働者の賃金を、市場の物価に合わせて大幅に上げることで国民生活をを安定させ、国営商店で市場価格より若干安く商品を販売することで消費者を誘導し、国家主導型の計画経済の復活を目論んでいたが、うまくいっていないというのが情報筋の説明だ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面「地方政府が運営する糧穀販売所(国営米屋)でもコメ、トウモロコシなど穀物価格が上がった。国が充分な量の穀物を供給できずにいて、お札を刷りまくって月給に充てている」(情報筋)
(参考記事:「賃上げ20倍でも意味がない」不満の声あげる北朝鮮の労働者たち)
平安北道(ピョンアンブクト)の別の情報筋は、昨今の賃金と物価上昇を見て、2002年の7.1措置の直後の状況を思い起こした。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面北朝鮮は2002年7月1日、経済管理改善措置を発表した。その中には、労働者の賃金を現実化するというものが含まれており、65北朝鮮ウォンから18倍から20倍引き上げられた。
「工場労働者の月給が上がり、最初は好評だったが、国が食糧、衣類、石炭などをまともに供給できなかったことで、市場の物価が大きく上がった。引き上げられた月給では、トウモロコシ1キロすら買えなくなってしまった」(情報筋)
情報筋が住む地域でも、今年4月から労働者の月給が20倍引き上げられた。しかし、貨幣流通量が増えたことで物価が上がり、道端で庶民が気軽に買い求めていた豆腐飯(トゥブバプ、北朝鮮風のいなり寿司)1個の価格が250北朝鮮ウォン(約4.5円)だったのが、350北朝鮮ウォン(約6.3円)に上がってしまった。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面一部では物価がさらに上昇すると見て、買い占めに乗り出す人も出始めたと情報筋は伝えた。自家消費用なのか、転売用なのかは不明だが、買い占めが相次ぐとさらに物資不足に拍車がかかり、物価も上昇する。
「給料が増えると、消費者の需要が高まるが、供給が増えなければ、インフレが進行する」というのは経済学の基礎だが、まさか北朝鮮の政策立案者がわかっていないということはあるまい。計画経済を復活させようとする試みは、馬鹿げているとわかっていても、上からの指示とあっては逆らうわけにいかないのだろう。
(参考記事:金正恩氏が父の大失政「貨幣改革」のマネごとをする謎)