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「お前なんぞに娘はやらん!」

昭和のセリフのようだが、親に結婚を反対される人は今でも少なくないようだ。結婚情報サイトを運営するネクストレベルは2021年、親に反対された相手と結婚した男女185人にアンケート調査を行った。反対理由として最も多かったのは「相手の収入が充分でない」(22.7%)だったが、「家の格が合わない」(9.7%)、「相手の出自が気に入らない」(7.9%)など、目を疑うような理由も挙げられた。

北朝鮮では、このような理由で結婚を反対されることが多いようだ。徹底した身分社会であり、成分の悪い(身分の低い)相手と結婚すると、自分はもちろん、家族の「家柄にも傷がつく」からだ。

(参考記事:【徹底解説】北朝鮮の身分制度「出身成分」「社会成分」「階層」

咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えたのは、元在日朝鮮人と結婚しようとした幹部の娘の話だ。

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慶源(キョンウォン)郡の高級中学校(高校)で教師として働くAさんは、2年間付き合ってきた同僚のBさんと結婚しようとしていた。そのことを検察所の幹部である父親Cさんに打ち明けた。

恋愛結婚を望む若い世代と異なり、上の世代はお見合い結婚を望む。Cさんは一人娘のAさんを、成分が良く大卒で兵役を終えており、出世が見込める男性と結婚させたいと考えていた。そして自分の影響力を行使して、いずれ娘婿を道の幹部にさせようと目論んでいた。そう考えていたところに、突然降って湧いた娘からの告白に、Cさんは激怒した。

「出身成分がよくなければうちの婿にさせない。すぐに関係を清算しなさい」

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Bさんは、日本から帰国した元在日朝鮮人の家系で、北朝鮮では成分が悪いとされている。かつてなら日本の親戚からの仕送りも期待できたかもしれないが、世代が変わり親戚との付き合いもあまりなくなり、仕送りが途絶えるということもあるようだ。

Cさんは、すぐに知人に「娘が見合いをするから良い人を探してくれ」と頼み、条件に合った男性を家に招く段階にまで至った。

いくら説得しても一向に耳を貸そうとしない父親に絶望したAさんは、除草剤を飲んで自ら命を絶とうとした。幸いにしてすぐに発見され、病院に運ばれ一命をとりとめたが、一族は大騒動になった。

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父親のCさんはついに根負けして、結婚に同意せざるを得なかった。しかし、結婚するに当たって条件を出した。

「教師なんぞを婿にするのは恥ずかしい。私がカネを出すから清津(チョンジン)に引っ越して貿易の仕事をしなさい」

儒教の影響が残る北朝鮮で、教師は決して「卑しい職業」とはされていない。しかし給料は極めて安く、児童、生徒やその保護者から金品を取り立てることでようやく生活が成り立つ。父親からすると将来が見込めないということなのだろう。

(参考記事:北朝鮮学校の「子ども搾取」経済難でいっそう激しく

自ら命を絶とうとしてまで、愛を貫き通したこの話は、あっという間に噂で広がった。結婚を渋々認めた父親とは異なり、この話を聞いた人々は「紆余曲折はあったが、良い結果となった」と異口同音に喜びを示した。

一方で、こんなことを言う人もいた。

「力のある義父と出会った教師は、成功するに違いない」

貿易の仕事は以前ほどではないとはいえ、教師よりは儲かる仕事だ。さらに、移動の自由が許されていない国で、父親の権力を使って、道内最大都市への移住も叶った。これは「逆玉」であることに違いない。