北朝鮮には数多くの教員大学、師範大学が存在する。教員養成機関だけあって卒業生は学校の教師になるのだが、在学生は一様に深い悩みを抱えていると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
北朝鮮では、軍隊上がりの若者や高校、大学を出たばかりの新卒者を、農村や炭鉱など誰も行きたがらないところに送り込む「嘆願事業」というものが行われている。以下は、先月6日に国営の朝鮮中央通信が配信した記事だ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面江原道内の青年が社会主義建設の困難で骨の折れる部門に志願
【平壌2月6日発朝鮮中央通信】党中央委員会第8期第9回総会の決定と共和国政府の施政方針を貫徹するための総進軍の前列で愛国の力、団結の力を宣揚するという意志を抱いて、江原道の60余人の青年が社会主義建設の困難で骨の折れる部門へ進出した。
党が示した穀物生産目標を必ず達成するという決意をもって、金剛郡と板橋郡の青年同盟(社会主義愛国青年同盟)員が農場に生の座標を定めた。文川市、川内郡、平康郡、安辺郡、高山郡などの青年は、地方建設、農村建設の各部門に志願した。
北倉地区青年炭鉱連合企業所の松南青年炭鉱(平安南道)に志願した昌道郡、淮陽郡の青年と、道路小隊に送ってくれることを青年同盟組織に提起した元山市、通川郡、高城郡などの青年の行為も、人々を感動させている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面困難で骨の折れる部門へ志願した青年たちを祝う集会が、江原道芸術劇場で行われた。
江原道党委員会の金明鉄書記、青年同盟の活動家、青年学生が参加した集会では、演説と討論があった。
新しい持ち場へ発つ志願者を道内の活動家と青年学生が温かく歓送した。---
自分の意志で向かったことになっているが、実際は上から強いられたものだ。各地域には「何人嘆願させよ」とノルマが課せられ、プレッシャーを掛けて逃げられなくする。
(参考記事:各地でトラブル続発、北朝鮮の農村「嘆願」事業)咸鏡北道(ハムギョンブクト)の師範大学、教員大学でも同じような状況になっている。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)の現地の情報筋は、卒業生が当局に農村にある学校に行くように強いられ、頭を抱えていると伝えた。
会寧(フェリョン)にある金正淑教員大学の中の朝鮮労働党委員会と青年同盟委員会は今月、卒業生を集めての集会を2回も開き、教育事業の発展のために金正恩総書記の意図を貫徹するために農村の学校に向かうように訴えた。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面かつての北朝鮮では、各道の朝鮮労働党委員会が、教師の人事権を司ってきた。農村部の学校に行かされる教師も少なくなかったが、その多くが必死になって都会の学校へと逃げようとした。
(参考記事:もはや「就職詐欺」というべき北朝鮮の嘆願事業)農村は生活・教育のインフラが整っておらず、物資も不足気味だ。たまの休みに楽しもうにも、どこにも行くところがない。ただ、それは短期的な不満にすぎない。長期的には戸籍が農村戸籍に書き換えられてしまい、永遠に農村に縛り付けられ、貧困から抜け出せなくなってしまう。そうなる前にコネとカネを使って逃げ出そうというわけだ。
そんな傾向を問題視した当局は、農村の「発展ぶり」を強調し、農村の学校に必要な教師を補強する意図で、嘆願事業を推し進めている。しかし、見事に誰も行きたがらないのだ。
「大学に農村出身の学生がいないわけではないが、ほとんどが都会出身だ。彼らは教育水準や環境などが劣悪な農村に行こうとしない」(情報筋)
北朝鮮における就職は、自分の行きたいところに行くものではなく、上からあてがわれるものだ。本人はどの地域のどこ学校に配属になるのかはわからない。人事部署は、軍隊も社会人生活も経験していない学生の「革命的鍛錬」のために、農村の学校へと送り思うとする。
そのため、農村に行かされるのではないかと震え上がっているのは「直通生」だ。北朝鮮では、兵役を終えた後に推薦書をもらって大学に入る人が少なくないが、直通生は日本で言うところの現役、つまり高級中学校(高校)を出てすぐに大学に入った学生を指す。
「職業革命家」と呼ばれる教員は、党にあてがわれた学校に行かざるを得ない。拒否しようものなら、革命家の資格がないとして、よりひどい炭鉱などに、教師ではなく、労働者として送り込まれる可能性がある。
(参考記事:次々に人命を飲み込む北朝鮮「魔の手掘り坑道」)咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋は、間もなく師範大学を卒業する娘が、農村の学校に行かされると頭を抱えている。
朝鮮労働党咸鏡北道委員会(道党)は先週、師範大学と教育大学の卒業生を一人ずつ呼んで事前談話(面接)を行った。情報筋の娘は、独身で両親の世話をしなければならないからと、実家から近いところの学校に行きたいと訴えたが、道党の幹部に「将軍様(金正恩氏)の意図は、あなたが農村の学校に行くことだ」と言われてしまった。
金正恩氏の名前を出されると、辞令を拒否することは全く不可能になる。可能ではあるが、そうすると大学卒業と同時に、人生も「卒業」することになりかねない。
(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面)
情報筋は、娘の行く末を案じている。
「うちから近い農村の学校に配属されれば幸いだが、遠方の市や郡の農村に行くことになると、大変なことになる。文化水準や生活条件が悪いのはもちろん、交通が不便で、休日に帰省するのも一苦労だ」(情報筋)