「シケモク」と言われても、今の日本の若者はわからないかもしれない。比較的近年では、吸い終わったタバコを再度吸うことの意味合いで使われるようになった。
しかし、元々は道に捨てられて湿ったタバコの吸い殻を集めて分解し、新たに1本のタバコとして製造し直したもののことを指し、終戦直後の闇市で売られていた。
時代は変わって2024年の2月16日。北朝鮮の平安北道(ピョンアンブクト)定州(チョンジュ)では、故金正日総書記の生誕を祝う光明星節を迎え、多くの市民が銅像に花束を捧げた。その傍らでは、熱心に「シケモク」を拾う人々の姿があった。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
現地の情報筋によると、定州市内の工場や企業所、行政機関は、当日の午前10時から2時間、銅像に花束を捧げる儀式に従業員総出で参加した。列に並び、順番になれば銅像に花を捧げるというものだが、銅像の前にたどり着くまでには1時間ほどかかる。
暇を持て余した人々は、次々にタバコに火を付け、吸い殻をポイ捨てする。神聖なる銅像の前での喫煙、ポイ捨ては、日本的感覚では極めて不敬な行為のように映る。儒教的な考え方でも、目上の人の前でタバコを吸うことは失礼に当たるが、現在の北朝鮮ではそうでもないようだ。
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儀式が終わり人々が去った後の広場のあちこちに、タバコの吸い殻が落ちていた。やがて、多くの女性がやってきて、先を争うように吸い殻を拾い集めていった。掃除ではない。生き抜くためだ。
別の情報筋によると、道内の龍川(リョンチョン)でも同様の行事が開かれ、「偉大な首領金日成同志は永遠にわれわれと共にいらっしゃる」と刻まれたオベリスクの永生塔に花が捧げられた。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面正午に行事が終わると、多くの農民が永生塔の周りに集まり、タバコの吸い殻を拾い上げ、ビニール袋に詰めていった。その行き先は商人だ。
「フィルター付きタバコは冬服を作る商人に渡すとカネがもらえる。タバコを作っている商人に持っていくとさらに高く売れる」(情報筋)
北朝鮮では、中綿入りのジャケットが人気だが、そのまがい物としてタバコのフィルターを詰めたジャケットが製造、販売されているようだ。また、タバコ葉の部分は分解して、新たにタバコを作るのに使われる。
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吸い殻の買取価格は1キロで1万北朝鮮ウォン(約170円)で、市場でトウモロコシが3キロも買える。
吸い殻がよく集まる場所として、今回の光明星節の行事のような大規模なイベント会場が挙げられており、農民は忠誠心を示す花束を捧げることよりも、吸い殻集めに熱心になるのだ。