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近松秋江(ちかまつしゅうこう、1876ー1944)の小説、「黒髪」「狂乱」「霜凍る宵」のストーリーは、京都の遊女に魅了されるも裏切られた「私」が、しつこく追いかけ続けるというものだ。実は子どもができたと明かした「女」に、「私」はこんな思いを抱く。

「どんな男が、この私の生命と同じい女に子を生ましたのだろう。なぜ私の子が生まれなかったか。そんなことが万一にもあるかも知れぬからこそ、一日も早く商売を廃(や)めさしたかったのだ。いよいよいけないことになってしまった」

しかし「私」が「女」の家をたずねると、実際は子どもはおらず、単に京人形だったのだ。とりあえずその場は収まったが、その後も「女」の持ち物について「私」は根掘り葉掘り聞き出そうとする。

「たといいかなる深い男があっても、自分のこの真情まごころに勝まさる真情を女に捧ささげている者は一人もありはせぬ。それに、自分の観察したところによると、女は自分の方から進んでいって決して男に深くなるような気質は持っていない」

この作品の書かれた1924年にはまだ「ストーカー」という言葉はなかった。人口に膾炙したのは「桶川ストーカー殺人事件」など、ストーカーに関連した犯罪が多発した1990年代後半ころからだろう。ストーカー規制法ができた今でも、同様の事件は後を絶たない。

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北朝鮮には「ストーカー」という言葉はないようだが、ストーカーやそれと関連した犯罪は起きている。咸鏡南道(ハムギョンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

咸興(ハムン)市に住む20代男性のAは、昨年11月に女性Bと出会った。それからというもの、AはBにつきまとい、一方的に会うことを要求し続けた。Bが拒否したところ、Aはさらにしつこくつきまとい、今年に入ってからはBの家の前にまで押しかけて、このように脅迫した。

「付き合うと答えを聞くまではつきまとい続けてやる」

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そして今月の20日、事件が起きてしまった。Aは友人と酒を飲んだ後、「今日は是が非でも答えを聞き出す」と、Bがよく通る裏路地で待ち続けた。Bが現れるや、Aはこう迫った。

「なんで俺のことが気に入らないんだ。百回切れば倒れない木はない(石の上にも三年の意)というのに、お前はどうしてそうならないんだ」

Bはそれでも「付き合う気はない」と断ったたところ、AはBの胸ぐらをつかみ激しく揺さぶり、殴る蹴るの暴行を加えた。Bは周囲の人に大声で助けを求め、その場からなんとか逃れた。

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コートが破れ、殴られた頬が赤く腫れ上がったBを見た両親は、すぐにAの家を突き止めた。そして、娘を暴行されたことに対する賠償金を支払わせ、通報して労働鍛錬隊(短期の刑務所)送りにしてやろうと、怒鳴り込んだ。

(参考記事:北朝鮮「金持ち女性」たちの密かな楽しみ

しかし、Aは昨年兵役を終えたばかりの一文無しだった。「逆玉」に乗ろうと金持ちの女性を物色していたところ、Bが目に止まったのだと告白した。また、酒に酔った勢いで暴行してしまったと、許しを請うた。

両親は、家の中を一瞥してAの懐事情を察したのだろう。結局、謝罪だけ受けて、そのまま帰っていったという。

情報筋は、事件の根本的な原因は生活苦だと指摘したが、これは原因の一部に過ぎない。人によって異なるが、ストーカーはパーソナリティ障害や他の精神疾患が原因となることがあり、再発防止にはカウンセリングなど適切なケアが必要だ。

しかし、北朝鮮でそのようなカウンセリングは望むべくもなく、精神病院もの状況も極めて劣悪だ。さらに移動の自由がないため、加害者から離れるために引っ越すことも容易ではない。被害者は、加害者の影に怯えつつ、暮らすしかないのだ。

(参考記事:電気ショックに思想教育、拷問も…北朝鮮「精神病棟」のメチャクチャな実態