北朝鮮の首都・平壌で開催された第5回全国母親大会には、模範とされた母親や、孤児を育てた女性など1万人が参加した。
11年ぶりとなる今回の大会だが、金正恩総書記が演説で出生率の低下を初めて認めるなど、深刻化する少子化に歯止めをかけたいという思惑があるようだ。
しかし、世論の関心は「参加者はどう選ばれたのか」に集まっている。この手の大会に参加するには、カネとコネが物を言うからに他ならない。両江道(リャンガンド)では、参加者に疑惑の目が注がれている。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
現地の情報筋は、全国母親大会の参加者選抜の時点では市民の関心は高くなかった。しかし参加者らが金正恩氏と記念写真を撮り、贈り物をたくさん受け取ったことで、急に関心が高まり、「あの人たちには本当に参加する資格があるのか」という話でもちきりだという。
別の情報筋は、実際に大会に参加した女性の、問題だらけの経歴について伝えた。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面恵山(ヘサン)市の渭淵洞(ウィヨンドン)11班に住むチュさんは、大会に参加して「共産主義母親賞」を受賞した。親のいない13歳の男の子と女の子を引き取って育てていたことが認められてのことだが、実は彼女、孤児が18歳になるや、すぐに「速度戦青年突撃隊」に追いやっていたのだ。
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突撃隊とは、半強制の建設ボランティアのことを指すが、孤児は労災事故に遭っても補償金を求める家族がいないことから、とても「便利な存在」として酷使されている。
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彼女はその後、すぐに親のいない14歳と12歳の兄と妹を引き取って育て始めたという。チュさん夫婦は、渭淵駅で預かった荷物を発送したり受け取ったりする仕事で生計を立てている。夫婦に引き取られた男の子は、雨や雪の降る日でも駅で荷物の見張りをする仕事をさせられ、女の子は家のありとあらゆる雑用をさせられるなど、まるで下男下女のような扱いをされていたことを、地域住民なら誰でも知っていることだという。
(参考記事:「死んだのは孤児だから…」金正恩体制支える奴隷労働の生々しい実態)孤児を4人以上育てた女性に大会への参加資格が与えられたわけだが、市民の見方は「今のような世の中で、純粋な気持ちで孤児を育てる人がどこにいるのか」(情報筋)というものだった。だが、これは人々のやっかみから出た見方かもしれないし、仮に事実だとしても、夫婦の行いが悪いことだとは容易に断定できない。
しかし、以下のような事例はまた別の話だ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面同じ恵山市の新興洞(シヌンドン)27班に住むオさんも、身寄りのない子どもを4人引き取って育てたことで、「共産主義母親賞」を受賞した。だが、彼女は全国を震撼させた凶悪事件への関与が疑われる人物だったのだ。
事件が起きたのは今年2月のことだ。オさんの夫は、朝鮮労働党両江道委員会の責任書記(地域のトップ)のドライバーを務めるチュ・ホチョルという男性だが、その甥が覚せい剤を投与した後で、夫婦が育てていた孤児3人を惨殺した。
情報筋はそれ以上の詳細に触れておらず、夫婦が事件にどのように関与したかは不明だ。地元権力者のドライバーという特権的な地位、北朝鮮社会における孤児たち立場の弱さから、何らかの関与が疑われるものと見られる。
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