そこには通り魔犯罪とヘイトクライムが含まれるが、個々の事件をそのどちらに分類するか、より根本的にはヘイトクライムや差別の定義を巡り、激しい議論、対立が起こっている。

その背景には、韓国社会が過去40年で経験した社会の大きな変化がある。

1990年代までの韓国社会のメインテーマは、統一や民主化、経済発展などだったが、民主主義体制が定着した2000年代に入り、大きなテーマに隠されていた個人レベルの人権問題が社会的に議論されるようになった。その一つが女性の低い地位に関する問題だ。

ノーベル文学賞受賞候補と言われていた詩人の高銀(コ・ウン)氏、世界的な知られた映画監督の故金基徳(キム・ギドク)氏、次期大統領候補と目されていた故朴元淳(パク・ウォンスン)前ソウル市長による女性への性暴力加害など、近年になり、今まで覆い隠されていた多くの女性の声なき声が明るみに出て、著名な人物の社会的地位を奪うほどの力となった。

また、1980年の光州事件(光州民主化運動)で戒厳軍の性暴力被害を受けた女性たちが、38年も経ってからその被害を告白した件は、その大きな流れの中にあると言えよう。

(参考記事:17歳の女子高生ら被害も「氷山の一角」か…暴露された韓国軍の性暴力

さらには、社会的に弱い立場に立たされている脱北者女性を保護すべき警察が、性暴力の加害者となった事件も明るみに出た。

(参考記事:韓国警察の脱北女性への性暴力が横行、組織的な隠蔽も

しかし、これらの告発、女性の地位向上、アファーマティブ・アクション(差別是正措置)に対して、既得権層である男性の一部から逆差別であるとの声が上がるなど、対立が激しくなった。