北朝鮮を訪れる外国人観光客が決して連れて行ってもらえないところ、それは市場だ。社会主義計画経済で国が成り立っていることが建前であるため、資本主義的要素のある市場は、外国人に見せてはならないと考えられているようだ。
市場で売られているストリートフードも、外国人が味わうことのできないリアル北朝鮮B級グルメだ。その代表例として挙げられるのが「人造肉」。おどろおどろしい名前だが、おからを固めて作ったソイミートのことで、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」のころに、肉の代用品として作られたものだ。
(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為)
そこにごはんとヤンニョム(薬味)を入れた「人造肉飯」は、少し歯ごたえがある食感にピリ辛味のいなり寿司のようで、韓国在住の脱北者が営む食堂の定番メニューの一つだ。
そんな人造肉飯を作って売り、生計を立てていた人々に嬉しいニュースが舞い込んできた。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋によると、恵山(ヘサン)市場で一時期、1キロ7000北朝鮮ウォン(約119円)台まで高騰していたコメが、5000北朝鮮ウォン(約85円)台まで下がった。
実は今まで、人造肉飯、餅などコメを材料とした食べ物を売っていた商人たちは、しばらく営業ができない状態となっていた。コメ価格の高騰で値段を上げるか、量を減らすかの選択を迫られたが、既にサイズが小さくなっていた1つ500北朝鮮ウォン(約8.5円)の人造肉飯の値段を上げると、もはや全く売れなくなってしまう。
「人造肉飯や餅が一つ買える金額に、100北朝鮮ウォン(約1.7円)、200北朝鮮ウォン(約3.4円)足せば、ジャガイモが1キロも買えるのに、誰が買うだろうか」(情報筋)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面コロナ禍で国境が封鎖されてしまったことで、輸入品が入らなくなり、貿易に頼っていた恵山の地域経済は壊滅的な打撃を受けた。それに加えて、コメ、トウモロコシの価格が高騰し、皆が皆、食糧難に苦しむような状態となり、コロナ前にはちょっとしたおやつだった人造肉飯が贅沢品となってしまったのだ。
人造肉飯や餅は市場から姿を消し、商人たちは、代わりに小豆粥を売って糊口をしのいでいた。だが、コメ価格が下落したことで、また再び人造肉飯、餅を売るようになった。
(参考記事:餓死者発生か…北朝鮮、コロナ対策の都市封鎖を解除)「コメ価格の下落で最近は、餅や人造肉飯を売る商人の姿をあちこちで見かけるようになり、町内を売って歩く人もいる。食べ物を売れば損はしないと言って笑みを浮かべているのを見ると、粥が食べられるほどの儲けは出るのだろう」(情報筋)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面また、おからの値段が下がったことで、おからから製造される人造肉の値段もかなり下がった。人造肉は帯状のものにぐるぐる巻かれた状態で売られているが、1巻の値段が5300北朝鮮ウォン(約90円)から4000北朝鮮ウォン(約68円)まで下がり、「この価格なら餓死しない程度の儲けが出る」と人造肉飯を売る人たちは喜んでいるとのことだ。
今後、コメ価格が上がらなければ商売が続けられるのだが、北朝鮮の周期的なコメ価格のサイクルを考えるとそうはならないかもしれない。
コメ価格は収穫直後の10月、11月が最も安く、春から価格が上昇し始め、初夏にピークに達する。在庫が減って流通量が減る、家々の備蓄が底をつき、市場に買いに行くため需要が増えるという単純な理由からだ。
そのサイクルを断ち切るには、海外からコメを輸入するのが最も手っ取り早い方法だ。
ミサイル実験を行うたびに、国民の間からは「そんなカネがあるならコメを輸入しろ」との声が当然のように上がっている。ちなみにタイ・バンコクの輸出向け市場では、コメ1トンが9月現在で620ドル(約9万3000円)だ。
韓国のニュース専門チャンネルYTNは、昨年11月初頭の2回のミサイル発射費用を1億2000万ドル(当時のレートで約176億円)と推測し、北朝鮮が自国生産だけでは不足するコメを補うために、中国から輸入したものの2年分近い額に相当すると報じている。
(参考記事:「貴重なドルを海にぶちまけた」北朝鮮国民、衛星失敗で金正恩氏を批判)