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韓国社会を揺るがす大問題となっている、小学校教師の相次ぐ自殺。そしてそれに抗議する教師たちの大規模集会。その背景には、モンスターペアレンツからの激しい攻撃、学級崩壊など、かつてなら考えられなかったような「教権崩壊」がある。

教権とは、狭義では法で定められた教育課程決定や編成に関する権利などを指すが、広義では教師の権威を指す。韓国のみならず儒教の影響を受けた東アジアでは、教師の権威を絶対誌する風潮が長く続いた。特に韓国では2000年代まで、保護者は教師に「寸志」(チョンジ)と呼ばれる付け届けをするものだった。

ところが、2015年に成立し、翌年施行された不正請託及び金品等の収受禁止に関する法律――通称キム・ヨンナン法で寸志が禁じられ、児童・生徒が教師の問題発言や、2015年に施工された改正児童福祉法で禁じられた体罰などをネット上に公開して炎上させるなど、韓国における「教権」は徐々に失墜していった。

韓国教員団体総連合会の集計によると、2010年代初頭までは年間200件程度だった教権侵害の事例が、その後徐々に増加。2016年には572件、2019年上半期には、児童・生徒による事例が1254件、保護者による事例が118件、合わせて1372件に達した。

このような教権の侵害と崩壊は北朝鮮でも起きている。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

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咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋によると、9月に入って中央から、「教員を優待し尊敬する社会的気風を確立することについて」という指示が下され、それに基づく宣伝事業が行われている。指示では、「教権回復は国の将来に関わる重要な問題」との指摘があった。

北朝鮮での教権崩壊は、カネとコネが何よりも優先される今の北朝鮮の現実を反映したものだ。

清津(チョンジン)市内の水南(スナム)区域の高級中学校(高校)では、27歳の女性教師が解任される事件が起きた。教師が教室に入ってきても無視して遊び続ける生徒に対して何度か指摘をしたところ、この生徒から激しい暴行を受けた。

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頭部に怪我をした教師は、顔から血を流しながら病院に向かった。ところが、学校側は教師を守り、加害生徒を罰するのではなく、「自らが受け持つ生徒とケンカしたのは教育者としての姿勢ではない」として、逆に被害教師を解任してしまったのだ。教師本人も、生徒の家を訪ねて保護者に謝罪している。

この加害生徒が、朝鮮労働党咸鏡北道委員会の幹部の息子だったことで、市民が怒りの声を上げている。父の権力を笠に着て、傍若無人に振る舞うドラ息子は、北朝鮮でも問題になっている。

(参考記事:北朝鮮の「ドラ息子」乱闘騒ぎの苦すぎる後始末

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北朝鮮の教育機関はすべて国の予算によって運営されているが、実際のところは、幹部やトンジュ(金主、ニューリッチ)など富裕層の保護者からの寄付に頼っている。そのため、彼らには逆らえないのだ。

平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋も、現地に中央から同様の指示が下されたと伝えた。カネと権力に物を言わせて、校則など全く気にしない不良生徒やその保護者への対策に、中央がようやく重い腰を上げた形だ。

各単位(機関や企業所などの職場)には、教権回復のための宣伝利用が配布された。それは単純な倫理、道徳的問題ではなく、国の将来と関わる重要な問題であり、教権を毀損する現象を叩き潰しとしている。

しかし多くの保護者と市民は、今回の動きに懐疑的だ。

教師は、保護者からのワイロでなんとか暮らして行けているのが現状だ。給料が少なくとも、食糧配給を規定通りに行い、保護者の顔色をうかがわなくてもいいようにしなければ、決して問題は解決しない。

「かつて、職業的革命家として優遇されていた教師が、保護者から経済的に支援を受けるようになってから教育者の権威が地に落ちた」(情報筋)

いや、解決したとしても、富裕層が教師をする軽視する傾向は変わらないかも知れない。「カネ、コネ、権力がすべて」というのが、北朝鮮の現状だ。金儲けをするのに何の役にも立たない「革命史」などを教える教師を大切にする時代は戻ってこないだろう。語学、ビジネスと言った実用的な教科や、音楽や芸術などの教養を教える家庭教師は、それなりの地位が得られるかもしれないが。

(参考記事:【北朝鮮の教師インタビュー】生徒の親からの「ワイロ」に依存した生活もコロナで破綻