1950年6月25日の明け方、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)は38度線を越えて、韓国に攻め入った。3日後に首都ソウルを陥落させ、わずか2カ月で、大邱や釜山などを除く、朝鮮半島の約9割を支配下に置いた。しかし、9月10日から始まった仁川上陸作戦で形勢は大きく逆転。北朝鮮側が逆に追い詰められる立場となった。すると今度は、中国人民義勇軍が参戦。朝鮮半島は2回にわたり、南へ北へと動く戦火のローラーにかけられた。
これが朝鮮戦争だ。
北朝鮮は6月25日を「米帝反対闘争の日」としており、各地で集会が開催された。国営の中央通信は次のように報じている。
(参考記事:「米国は侵略戦争の挑発者」北朝鮮、朝鮮戦争73年で米国を非難)6・25米帝反対闘争の日の大衆集会 各道で
【平壌6月26日発朝鮮中央通信】6・25米帝反対闘争の日の大衆集会が25日、各道で行われた。
地方の党、政権・経済機関、勤労者団体の活動家と勤労者、青年学生が各集会に参加した。各大衆集会では、各階層の代表が演説した。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面演説者たちは、米帝野獣の蛮行によって新しい生活が躍動していた共和国の全域が灰塵と化し、敵の汚らわしい軍靴が行き届く全ての所で罪のない人民の血が川の水のように流れていた残酷な戦争の3年間をわれわれは生々しく記憶していると吐露した。
また、二度とこの地が侵略者の軍靴の下に踏みにじられてはならないので、6・25の凄絶な歴史が絶対に繰り返されてはならないのでわれわれは報復の核の霊剣、敵撃滅の核武装を自分の手にしっかりとらえたと述べた。
そして、オオカミがヒツジに変わらないように米帝と階級の敵の侵略的本性はいくら歳月が流れても絶対に変わらないという歴史のこの哲理を忘れれば階級の目が遠くなり、6・25の惨禍が繰り返されると強調した。(以下略)
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第二の都市、咸興(ハムン)でも、咸興大劇場の前で群衆集会が行われ、多くの人が動員されたが、特に若者は辟易した様子だったと、咸鏡南道(ハムギョンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
集会に参加した若者たちは、皆で「新たな戦争挑発策動に狂奔する不倶戴天の敵」「6.25(朝鮮戦争)の代償を百倍、千倍にして取り返そう」「狼が山羊に変わることはない」といったシュプレヒコールが叫ばれる間を利用して、ひそひそ話に夢中になっていた。
「いつまでこんな集まりに連れ回されるのか。本当に嫌になる」
「数十年間叫んできたシュプレヒコールをまた叫んだからと、何が変わるというのか」(若者)
北朝鮮は、苦しい時こそ内部結束を強めるようと、思想教育を強化する傾向になるが、ドラマや映画を通じて豊かな韓国の暮らしを知っているだけに、若者の評判は極めて悪く、むしろ逆効果になっている。
「生きていくのもやっとなのに。南朝鮮(韓国)と米帝への復讐を叫びより、人々がいかにすれば飢えないか、どうすれば国の経済が発展するかを関心を見せるフリぐらいしてほしいと思っているのだ」(情報筋)
(参考記事:「聞くだけでイライラ」金正恩の思想教育に国民は限界)
韓流ドラマ・映画を通じて北朝鮮の人々が知ったのは、韓国が豊かな暮らしをしていることだけではない。平安南道(ピョンアンナムド)安州(アンジュ)製紙工場に務める情報筋は、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)の取材に、地元当局が今月23日、若者を会館に集めて「祖国解放戦争」というドキュメンタリー映画を見せたと伝えた。
若者に対する反帝国主義反米教育を強化するとの目的で開催された今回の映画上映会だが、その内容は、「米帝と南朝鮮傀儡が神聖なる共和国(北朝鮮)を飲み込むべく、戦争を挑発し、平壌をはじめとした都市も村に爆弾を落として焼け野原にした」というものだった。
上映後に工場の党委員会の幹部は若者たちにこう檄を飛ばした。
「若者はいっときたらずとも、戦争を起こした敵どもを忘れることなく、百倍、千倍にして復讐し、滅敵の意思で今月の計画(ノルマ)を遂行(達成)しなければならない」
しかし、映画を見た若者たちは、「戦争を起こしたのは自分たちの方ではないか」と語り合っていたという。朝鮮戦争は北朝鮮が先に侵略した「南侵説」が様々な証拠で裏付けられているが、北朝鮮は未だに韓国や国連軍が北朝鮮を先に侵略したという「北侵説」に基づいた教育を行っている。しかし、もはやそれも通じなくなりつつあるのだ。
平安北道(ピョンアンブクト)(リョンチョン)郡灌漑管理所で働く別の情報筋は、同じ映画を見せられた若者は「退屈だ」と、全く関心がなさそうだったと伝えた。「チャンマダン(市場)世代」と呼ばれる今の若者は、当局の行う思想教育に全く興味を持たないという。
「若者たちは、市場でUSBに保存された外国映画を見たり、南朝鮮のラジオを密かに聞いているので、朝鮮戦争を起こしたのはわれわれ(北朝鮮)の方ではないかと、当局の嘘を批判する」(情報筋)
(参考記事:北朝鮮の若者たちにはバレている朝鮮戦争を巡る「ウソ」)