チェコスロバキア(当時)の援助を受け、1956年に設立された北朝鮮の勝利自動車連合企業所。平安南道(ピョンアンナムド)の徳川(トクチョン)に所在し、従業員数は2万5000人。2.5トントラックなど様々な軍用、民生用のトラック、乗用車、バスを生産してきたが、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」を前後して生産ができなくなってしまった。
その後、再開にこぎつけて、2017年には金正恩総書記が現地指導に訪れ、生産工程の現代化を指示した。内閣の機械工業省は、中国から設備と部品を取り寄せ、生産を行わせた。
(参考記事:金正恩氏がトラックを運転して吠えた「これは奇跡だ!」)
ところが2020年1月、北朝鮮は新型コロナウイルスの国内流入を恐れるがあまり、国境を封鎖し、貿易をストップしてしまった。この極端なゼロコロナ政策で、勝利自動車も部品の輸入ができなくなってしまった。当然、経営状態は悪化した。そんな中で経営陣は奇策を考えつき、実行に移した。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
国は、今年の経済分野の課題として、穀物生産や電力生産など12の高地(目標)を提示、幹部の保身主義と適当主義は自らを滅亡に追い込むとし、各企業所の幹部に国家計画(生産ノルマ)が達成できなければ、その責任を問うと警告した。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面これに勝利自動車の幹部は頭を抱えた。輸入は一部で再開しているものの、コロナ前の水準には程遠く、生産ノルマを押し付けられたところで、部品も資材も予算もないためどうしようもない。そこで考えついたのは、「焼きいも屋」だった。
(参考記事:【北朝鮮幹部インタビュー】「輸入だけでなく輸出もしたい。複数の貿易ルート再開を」)現地の情報筋によると、傘下の各工場の支配人は今月、店舗を構え、焼きいもを売り始めた。焼きいも屋と言っても、さつまいもだけ売るのではなく、焼き栗、パン、タバコ、果物などを市場価格で販売するちょっとしたスーパーマーケットだ。ここでの収益で、部品や資材を購入するという目論見だ。
焼きいもブームは他の大工場にも広がっている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面別の情報筋は、道内の安州(アンジュ)にある南興(ナムン)青年化学連合企業所も、傘下の各工場が正門と裏門のそばに焼きいも屋をオープンし、運営に乗り出したと伝えた。
ここは大規模な肥料工場として有名だが、農繁期を控えて尿素肥料の生産ラインの更新に迫られている。しかし、その資金がないため、焼きいも屋を始めたわけだが、ここではいもだけでなく各種食品、さらには酒まで並べて、工場の従業員や地域住民に市場価格で販売している。
しかし、住民の反応は肯定的なものではない。
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日本で大型ショッピングモールが、地域の商店街を「シャッター通り」状態に追い込んだのと似たような状況が北朝鮮でも起きてしまっているのだ。
(参考記事:資本主義化が進む北朝鮮…秘密警察「ビジネス参入」で民業圧迫も)だが、工場幹部はなりふり構っていられない。ノルマが未達成となると、たとえ自分の責任ではなかったとしても、詰め腹を切らされる。吊し上げに遭って散々恥をかかされた上で、運が良ければ降格、最悪の場合は物理的にクビが切られることさえ考えられるのだから、必死になるのも当たり前だろう。
(参考記事:金正恩「34人を大量粛清」農業不振と食糧難で)