世界保健機関(WHO)の資料によると、北朝鮮の人口は2021年7月の時点で2566万人。しかし、実際には大幅に水増しされていると疑われている。脱北者で韓国紙・東亜日報の記者であるチュ・ソンハ氏は、独自に入手した北朝鮮の中央統計局の内部資料に基づき、2005年の2100万人を頂点に人口が減少し始め、2015年には2060万人に過ぎないと報じている。
人口減少が国外に知れ渡ること、国力が衰退しつつあることがバレてしまうことから、北朝鮮で人口統計は極秘事項とされており、それを知ったアーカイブの責任者が妻に話したことで、一家もろとも逮捕、連行されてしまった出来事もあった。
(参考記事:金正恩の極秘情報をたまたま知った「平凡な主婦」の悲惨な運命)
また、登録された住所に住まず、よりよい収入を求めて農村から都会に移動したり、行商を続けたり、或いは脱北したりする人もいることから、正確な人口はわからない。ただ、人口の増減が垣間見えることもしばしばある。
(参考記事:「生きるために家を捨て、山の中で狩りをする」北朝鮮の飢餓が深刻)平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋が、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)に話したところによると、鉱工業と商業が発達している道内の順川(スンチョン)市が、人口増加に伴い、行政区域を変更した。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面製薬工場など様々な工場が密集し、数年前に平屋の住宅を取り壊されマンションが建った烽火洞(ポンファドン)と蓮浦洞(リョンポドン)では、人民班(町内会)が84班まで存在する。1つの人民班には通常、30から35世帯が所属するが、この町内では、50から60世帯もいる人民班もあるとのことだ。
そこで当局は、烽火洞から20の人民班を分離し、新築されたマンションの人民班と合わせて、新蓮浦洞(シンリョンポドン)を新設した。
別の情報筋によると、この地域は市内で最も人口が密集していて、マンションを除くと、平屋の住宅が果てしなく広がっているところだという。市内中心部の駅前洞(ヨクチョンドン)や順川洞(スンチョンドン)には順川リン酸肥料工場が存在するが、行政機関や商業施設が多い関係で、人口は烽火洞や蓮浦洞ほど多くないという。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面平壌中心部にはもはやマンション建設に向いた土地がないため、烽火洞や蓮浦洞、そして江浦洞(カンポドン)に5〜7階建てのマンションを建設するプロジェクトが2016年から始まったとのことだ。
人口増加に伴い、行政区域を新設したことは、人民班や洞事務所(末端の行政機関)の持つ住民監視統・制の機能が弱体化したためだという。1つの人民班に所属する世帯数が増えると、実質的な税金にあたる金品の供出、登録した住民以外が泊まったり住んだりしていないかをチェックする宿泊検閲、思想教育を末端で担う人民班会議など、住民統制の様々な機能に限界が生じる。
他の国であるような、行政サービスの向上のための行政区域の新設ではないと情報筋は語った。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面なお、順川市の人口は、北朝鮮の公式発表によると2008年の時点で29万7317人。一方、オーストリア・ウィーン大学のライナー・ドーメルス教授は2012年の推定値として43万7000人、韓国民族文化大百科事典は、1996年の推定値として47万人を挙げるなど、見当すらついているとは言えない。
(参考記事:移動の自由がない北朝鮮でも進む都市化…農村の生産力に打撃)