金正恩の極秘情報をたまたま知った「平凡な主婦」の悲惨な運命

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北朝鮮の警察庁にあたる人民保安省(現社会安全省)参謀部傘下に、紀要連絡所なる部署がある。

人民保安省内のすべての主要書類、機密文書を一時的に保管したり、慈江道(チャガンド)江界(カンゲ)市の将子山(チャンジャサン)革命史跡地の近くにある、最高指導者に関する記録の一切を保管するアーカイブに異動させたりしている。

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その紀要連絡所の所長、キム大佐は2019年冬、突如として黒いトラックに乗せられた。金正恩総書記の指示で保衛部に逮捕されたのだった。そして、室内で非公開処刑された。さて、その背景に何があったのだろう。デイリーNK取材班は、人民保安省の高位幹部とその家族の話をベースに、事件を再構成した。

事の発端は2019年3月のある日のこと。紀要連絡所にある書類が運ばれてきた。そこには、2016年から2018年に北朝鮮当局が行った人口調査(国勢調査)の結果報告書が含まれていた。他の国では当たり前のように公表されている国勢調査の結果だが、北朝鮮では国家機密に当たり、2008年を最後に公表されていない。

(参考記事:北朝鮮が「国勢調査」で脱北者探し

その記録を偶然目にしてしまったキム大佐は数日後、酒に酔った勢いで妻に対して、ついこんなことを漏らしてしまった。

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「わが国(北朝鮮)の人口が減ってしまえば、軍事服務(兵役)、農作業、経済建設の人員が足りなくなり、大変なことになる。文献を見ていて、人口が多く減ったのを見て本当に驚いた」

妻は、国家機密の何たるかを知らない、平凡な人だった。単に興味深いニュースだと考え、他のマンションに住むいとことその友人に、夫から聞いた情報を話してしまったのだ。自分たちの知っていたものより実際の人口がずっと少ないことを知った彼らは「なぜこんなに人口が減ったのか」「みんな逃げた(脱北した)んじゃないか」などと、その原因の邪推を始めた。

話は盛り上がったようで、「慢性的な食糧不足で餓死した、病死した」「若者や貧乏な人たちは子どもを産まない」「産むにしても一人だけにして大事に育てる」などと、様々な見方を語り合った。

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それから数ヶ月。キム大佐の自宅に国家保衛省(秘密警察)が踏み込み、本人と妻、子どもの全員をどこかに連れ去った。

(参考記事:男たちは真夜中に一家を襲った…北朝鮮の「収容所送り」はこうして行われる

実は、大佐から妻、妻からいとこへと伝わった話は、恐ろしい勢いで口コミネットワークで広がり、人口に関するありとあらゆるデマが飛び交う事態となっていたのだ。これに対して国家保衛省が捜査に乗り出し、話の出どころがキム大佐であることを突き止めたのだった。

この一件は金正恩氏にも報告され、秘密裏に厳重処罰せよとの「1号指示」が下され、逮捕に至ったということだ。

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大佐は、国を大混乱に陥れるデマで敵を幇助、党と大衆を離脱させる敵対的行為を行ったとの理由で、処刑された。それもかなり残忍な方法で行われたとの噂が、人民保安省の高位幹部やその家族の間で出回った。具体的な方法はわからないが、遺体がまともに残らないほどだったろうことは、今までの事例を考えると想像に難くない。妻子のその後は詳らかでないが、処刑を免れたとしても政治犯収容所に送られたことだろう。

(参考記事:若い女性を「ニオイ拷問」で死なせる北朝鮮刑務所の実態

通常、恐怖心を与える目的で行われる処刑は、多くの人を動員して公開で行われるが、今回は金正恩氏の指示により非公開で行われたこともあり、「見せしめ」効果を高め恐怖心を高めるために、国家保衛省があえて流したと言われている。

(参考記事:金正恩の「残虐ショー」で絶命した有名芸能人の致命的な失敗

その話を聞いた人々は、こんなリアクションを示したとのことだ。

「デマ流布が死刑にするほどの罪なのか」
「1号方針を受けて処刑したほどなら、張成沢(チャン・ソンテク)並みの現代版宗派(分派)ではなかったのか」
「人口統計の数字にあんなに敏感に反応するのは、最も明らかにしたくない重要な秘密だからではないか」

北朝鮮では過去に、外国に電話帳を売り払ったからと処刑された人がいた。それほど徹底した秘密主義を取るのが北朝鮮なのだ。人口減少で国力が衰退していることは、極めて重大な国家機密なのである。

(参考記事:変わらぬ北朝鮮、6人銃殺。理由は「電話帳を売ろうとしたから」

北朝鮮は今年になって、除隊(兵役満了)した兵士、都市部の若者、家頭女性(専業主婦)を、半強制的な「嘆願」の形で、労働力不足の深刻な農村、鉱山などに送り込む政策を展開している。

きつい、汚い、危険の3K職場で社会的な地位が低く、一所懸命働いたところで、一生貧困から抜け出せないため、多くの人が逃げ出しており、その穴埋めとして多くの人が送り込まれているというのが一般的な見方だ。しかし具体的な数字は不明ながら、相当レベルの人口減少が進行していることももう一つの原因なのかもしれない。

(参考記事:「こんなに残酷なことはない」北朝鮮兵士も動揺する無慈悲な命令