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中国との国境に面した北朝鮮の両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)で昨年末、母子が忽然と姿を消す事件が起きた。

現地のデイリーNK内部情報筋によると、市内の松峰洞(ソンボンドン)のある人民班(町内会)の住民は、町内のある家から2日前から人の気配が消えたことに気付き、保衛部(秘密警察)に通報した。

家には女性とその子どもが住んでいた。女性は家庭警備法に基づいて、先月26日の午前1時から3時まで、町内のパトロールに参加した。

(参考記事:北朝鮮、国民の移動統制を強化する「家庭警備法」を制定

このパトロールは、2世帯から1人ずつ出して行うことが定められているが、この女性は「先に家に帰って休めばいい、自分は4時頃に用事があるから一人でパトロールをしてから帰る」と言って、もうひとりの女性を先に帰宅させた。

夜が明ければ、人民班長(町内会長)にパトロールの引き継ぎを行うことになっているのだが、女性は現れなかった。人民班長が女性の家に行ってみたところ、玄関ドアに鍵がかかっていたので、何の気になしに自宅に戻った。ところが、その日の夜、翌日の朝になっても一向に連絡がないので、人民班長は再び女性の家を訪ねたが、依然として鍵はかかったまま。さすがにおかしいと思って保衛部に通報したという。

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出動した保衛部は、鍵を壊して家に入った。中は冷え切っており、数日間誰もいなかったことがすぐにわかった。また、家具や食器類もほとんどなかった。保衛部は、この母子の文件(個人情報ファイル)を調べたところ、離婚した夫が2019年に脱北したことがわかり、母子が元夫を頼って脱北したものと見て捜査に乗り出した。

母子の脱北の話はあっという間に市内全域に口コミで広がり、「夫が脱北ブローカーを雇ったのだろう」「今みたいに警備が厳しいのにどうやって脱北したのだろうか」「国境警備が緩くなったのだろうか」などと噂している。

そんな噂話が交わされていると報告を受けた保衛部は「まだ捜査結果も出ていないのに、元夫が川を渡った後に行方不明になったからと、母子も脱北したと断定するのはデマを広め、反動思想を流布する危険な行為」だとして、警告を発した。

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国境を流れる鴨緑江の川幅は、狭いところでわずか数メートル。上流には警備の手薄な地域もあり、国境警備が緩和されたという噂が広がれば、餓死者を出すほどの食糧難を免れるため、脱北しようという人がさらに現れてもおかしくない。

(参考記事:「母と息子は布団の上で息絶えた」金正恩の失政に批判も

母子が苦しい暮らしをしていたことを知った市民の間からは「今まで経済的に苦労したのだから、捕まらずに夫と再会して一緒に暮らせればいいのに」と同情する声が上がっている。

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脱北までしなくとも、家を捨てて山や海辺に逃げて、狩りや漁をして生きている人もいる。食糧配給もなく、商売もできず、薪を買うほどの経済的余裕もない人は、生きるために世捨て人になることを選ぶのだ。まるで江戸時代の逃散のようだ。

(参考記事:「生きるために家を捨て、山の中で狩りをする」北朝鮮の飢餓が深刻