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北朝鮮の国営朝鮮中央通信は先月16日、最高人民会議の常任委員会常務会議が、複数の法の修正・補足案を審議し、政令を採択したと報じた。この中に「便益サービス法」(朝鮮語の原文では便宜奉仕法)というものがあるが、記事は改正内容に触れている。

便益サービス法は、人民の生活上の便宜保障と健康保護増進に積極的に寄与するために便益サービス施設の組織と運営、便益サービス部門の専門家、技術者、技能工の養成と配置、営業許可申請とサービス業種の変更、違法行為に対する制裁を規制した部分の内容をより具体化した。

便益サービス施設(便宜奉仕施設)とは、理髪店、美容室、写真館、銭湯、レストランなどのレジャー関連の施設を指す。地方都市にある「恩徳院」と呼ばれるスーパー銭湯が典型で、風呂やサウナはもちろん、理髪店や美容室もあり、レストランも併設されている。

こうした施設は、本来は国や地方の機関や企業所、団体のみが道の人民委員会(道庁)から許可を受けて運営できることになっているが、トンジュ(金主、ニューリッチ)が投資して、運営するケースも少なくない。

(参考記事:ニューリッチの投資で私企業化する北朝鮮の国営企業

これらの便宜奉仕施設に対する規制と統制を強化し、資本主義化を防ぐのが今回の法改正の目的だ。

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「(当局は今が)人民が社会主義の世の中で暮らして、資本主義のことを考えることができないように断固として見せつけなければならない決断の時期だと見ている」
「数年間続いた個人私有化により崩壊した便宜奉仕部門を正すときだと考えている」(情報筋)

1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」を前後して、すべての分野において国が主導、運営、監督するという従来の体制は崩壊し、市場経済化がなし崩し的に進展。富を蓄えたトンジュが、開店休業状態に追い込まれていた分野の穴埋めをするという現象が起きていた。

ところが近年、市場経済化にストップをかけ、元の計画経済体制に戻し、市場経済はそれを補完する役割を担うという1980年代以前の状態に戻そうとする動きが見られる。昨年行われた朝鮮労働党第8回大会では、商業奉仕活動における国の主導的役割、調整、統制力回復が課題として挙げられた。

(参考記事:【総括】朝鮮労働党大会…「核の堂々巡り」に陥った金正恩

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それ以降、市場が担ってきた穀物流通の主導権を国が取り戻そうとする動きや、不動産取引を禁止したりする動きなどが起きているが、今回の便宜奉仕施設に対する統制強化も、その一環と言えよう。

(参考記事:本腰を入れて市場を潰しにかかる北朝鮮の「計画経済回帰策」

改正された法律では、国や地方の便宜奉仕施設を人民委員会(地方公共団体)の専門部署に管理させ、責任者や従業員の採用を幹部部(幹部の人事担当部署)や労働課が行うようにし、トンジュから人事権を奪った。

また、国の機関がトンジュと合意して運営を委託するケースもすでに少なくなかったが、これをすべて撤廃させ、違反した場合には国家計画経済混乱造成罪として処罰するとの内容も含まれている。

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デイリーNK内部情報筋によると、便宜奉仕施設のほとんどをトンジュが運営している。運営機関は営業成績の国家計画(ノルマ)が達成できなくとも、上納金を支払えば問題ないと考えている。その一方、国はこれを「統制から外れており、行政機関が衛生検査なども行えないなど、問題がある」と考えているのだ。

このような動きを受けて、トンジュたちは、今のうちに売却しなければ没収されかねないと考え、所有している施設の処分に乗り出している。彼らは、自分たちが便宜奉仕施設を運営できた時代は終わりを迎えたと見て、当局の干渉が比較的弱い市場での商売に戻ろうとしている。

国の思惑通りに、便宜奉仕施設が運営されるかは未知数だ。民間経営の施設が増えた背景には、国営施設のサービスが劣悪で消費者の需要を満たせない、トレンドについていけないなどの様々な理由があったのだが、国営に戻して管理監督を強化して、従来のサービスが維持できるのだろうか。

(参考記事:北朝鮮で「サウナ不倫」が拡大か…金正恩氏も止められず